トランプ大統領の政策に、マーケットは毎日のように右往左往しています。
多くのメディアや投資家たちは、彼の打ち出す政策の「本当の意図」を読み解こうと必死ですが、正直なところ、本人にしかわからないのが実情です。
しかし、「完全に不可解」と片づけてしまうのはもったいない。
実は、あるデータに注目すると、ぼんやりとですが彼の狙いが見えてきます。
それが米国の債務問題です。

意外に知られていませんが、アメリカは日本以上に「借金漬け」で苦しんでいます。
今回の記事では、米国政府の財政状況を軸に、トランプ政権の政策の真意を探りながら、これからの金融市場の行方について考察していきます。
特に医師として資産運用を考える投資家にとって、こうしたマクロな視点は「長期投資」の舵取りに役立つはず。
なお、為替は1ドル=143円で換算して話を進めていきますので、参考にしてください。
米国の借金は37兆ドル
今のアメリカ、抱えている借金の額をご存じでしょうか?
その額、なんと約37兆ドル──日本円にすると5291兆円にもなります。
これは米国のGDPの122.7%に相当し、経済規模を超えるレベルの巨大な負債です。
日本も「借金大国」とよく言われますが、日本の政府債務はおよそ1,200兆円で、GDP比は200%超え。
率だけ見ると日本の方が深刻に見えますが、米国は金額がケタ違い。
これだけの負債が世界最大の経済大国に存在しているという事実は、投資家として無視できません。

ここで素朴な疑問が湧きます。
「アメリカは本当にこの借金、返せるのか?」と。
それを考えるために、まずは米国政府の財務状況をもう少し深堀りしてみましょう。
米国政府は286兆円の赤字
国の借金は、基本的には国の「収入=税金」で返済していかなければなりません。
しかし今のアメリカ、収入と支出のバランスが完全に崩壊しています。
米国の税収は約5兆ドル。
それに対して、政府支出は約7兆ドル──つまり、2兆ドル(約286兆円)もの赤字を抱えているのです。
これはざっくり言って、日本のGDPの半分近い規模。
こう聞くと、事態の重みがグッと伝わるでしょう。
では、この7兆ドルの支出、内訳を見ていきましょう。
– 社会保障費:約1.5兆ドル
– 医療費:約1.7兆ドル
– 防衛費:約1兆ドル
– 国債利払い:約1兆ドル
ここで注目したいのが、国債の利払い費用。
なんと、世界最大の軍事費として知られる防衛費を超えているのです。
「世界最強」と言われる米軍の維持費を、単なる借金の利子が上回る──これ、ちょっとシャレにならない状況です。
さらに、今年に関しては、もっと衝撃的な事実が待っています。
それが「今年の借り換え額」です。

米国国債の借り換え
ここから話はさらにシビアになります。
今、アメリカ政府を待ち受けているのは、巨額の国債借り換えラッシュです。
コロナ禍の緊急対応で大量に発行した短期国債の満期が、今年、一斉に到来します。
当然ながら、政府にそんな現金はありません。
となれば、やることは一つ──新たな借金で借り換えるしかないわけです。
ここで問題になるのが、「金利」です。
パンデミック当時はゼロ金利近辺だったものの、今は高金利時代。
現在の高い金利で借り換えるしか選択肢がない状況に追い込まれています。
つまり、借り換えるたびに、返済負担が雪だるま式に膨らんでいく構造。
冷静に見れば、もはや持続可能とは言えないわけです。

トランプ大統領は資金繰りに窮している
ここまで見てきた通り、アメリカの財政事情は、まさに火の車。
米国政府の資金繰りは、かなり切羽詰まっていることがわかります。
そんな背景を踏まえると、トランプ大統領が次々と政策を繰り出している理由のひとつが、財政危機への対応であることは、まず間違いないでしょう。
具体的には、こんな動きが見られます。
1)支出削減を狙った政府機関のリストラ
→イーロン・マスクも中心となった米政府効率化省(DOGE)によるリストラ。
2)税収を増やすための関税政策
→「アメリカファースト」のスローガンの裏には、切実なカネの問題が潜んでいます。
3)軍事費抑制のため、ロシア・ウクライナ戦争の和平仲介を模索
→戦争が長引けば軍事支出が増える。それを止めにかかっているわけです。
もともと、トランプ大統領は不動産ビジネスの出身。
資金繰りの重要性については、骨の髄まで理解している人物です。
だからこそ、多少の反発をものともせず、ブルドーザーのように政策を押し通している──そんな見方が自然でしょう。
もっとも、こうした政策が本当に実現できるのか。
仮に実現したとして、アメリカの資金繰り問題が解決するのか。
それは、まだ誰にもわからない未来です。

投資家として注目すべき点は
ここまで話してきた通り、アメリカの資金繰りは極めて厳しい局面に立たされています。
医師投資家として、長期目線で資産運用をしているなら、「もし米国の資金繰りが滞ったら?」というリスクシナリオも頭に入れておくべきです。
細かいメカニズムは省きますが、ざっくり言えば、次のような事態が想定されます。
1)金利上昇 → 企業業績悪化
資金調達コストが上がり、企業の利益が圧迫される。
2)ドル安 → 米国内インフレ悪化
通貨の価値が下がれば、輸入品価格が上がり、生活コストも上昇。
3)米国債安 → 保有機関投資家の売却加速
国債価格が下がると、大量に保有している銀行や保険会社がリスク回避に動く。
つまり、最悪のシナリオでは、株安・債券安・米ドル安という三重苦が襲ってくる可能性があるわけです。
当然、これは「そうなるかも」レベルの話ではありますが、リスク管理の基本は「想定して備える」こと。
資産を守り育てる医師投資家にとって、この視点は極めて重要です。

まとめ:歴史的転換点かもしれない
米国財政を一般家計に例えると、
– 借金:3,700万円
– 年収:500万円
– 支出:700万円(うち赤字200万円)
– さらに、借金の利払いだけで毎年100万円
──この状況、普通なら銀行から融資を断られます。
それでもアメリカが借金を続けられているのは、米ドルが「基軸通貨」という特権を持っているから。
「ドルなら世界中が欲しがる」という前提が、巨大な信用の支えになっています。
しかし、歴史を振り返ると、これが永遠ではないことがわかります。
第二次世界大戦後、それまで世界の基軸通貨だった英国ポンドは、その地位を失い、代わって米ドルが主役に躍り出ました。
ここで忘れてはいけないのは、
「基軸通貨を決めるのは、アメリカ自身ではなく、米ドルを使う世界中の国々」
ということです。
すでに原油市場では、人民元やロシアルーブル建ての取引も始まっています。
米ドルへの信認がじわりと削られ始めているのは、決して無視できないサインです。
もちろん、米ドルが明日にも基軸通貨の座を失うわけではありません。
しかし、マーケットの環境がこれまでとは違う局面に入りつつある──そんな歴史的な転換点に、私たちは立ち会っているのかもしれません。
資金を米国一点集中から他国へ分散するか?
いったんキャッシュにしておくか?
金やビットコインなどにも一部資金を入れておくか?
それとも、下落はチャンスとインデックス積み立てを継続するか?

医師投資家として、資産を守るためにも、「変化に備える」という意識を今から持っておくべきでしょう。
扇動的なタイトルとは裏腹に、筋の通った推察を展開しています。