>近年、金(ゴールド)の価格が上昇し続けています。
投資家の間では「やはり金は安全資産だ」との声が高まっていますが、医師として資産運用を考えるなら「なぜ金が上がるのか」と、その背景を理解することが重要です。

金価格の変動には、歴史的なパターンが存在します。
これまでの市場の動きを振り返りながら「なぜ今、金が高騰しているのか?」を考察していきましょう。
なお金価格の評価はドル建てで行う事が一般的なので、以下はドルベースで見てゆきます。
金の値段を決める要因
医師にとってメジャーな投資対象である株には、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった評価指標があります。
しかし、金には評価指標がありません。
そのため、価格は主に市場の需給関係やマクロ経済の動きによって決まってきました。

歴史を振り返ると、特に以下の3つの要因が金価格の決定に大きく影響を与えています。
1)需給バランス:金の採掘量、ジュエリー需要、中央銀行の金準備などの動向
2)取引プレーヤーの増加:一般投資家だけでなく、機関投資家の参入
3)通貨発行量:世界的な金融緩和やインフレ懸念
次の図は1945年~2025年までの金価格チャートと主要な出来事です。
1973年のニクソン・ショック(ドルと金の交換停止)から2003年までは、需給バランスが価格を決める主要因でした。
2003年に金ETFが登場すると、機関投資家が金市場に本格参入し、新たな資金流入が金価格を押し上げる要因となりました。
2008年のリーマン・ショック後の大規模な通貨発行によって、金は「インフレヘッジ資産」としての注目を集め、価格上昇が加速しました。
以下で、それぞれの要因を詳しく見ていきましょう。
1973年ニクソン・ショック:通貨発行量の増加
第二次世界大戦後、ブレトンウッズ体制のもとで、金1トロイオンス=35ドルという固定相場制が採用されました。
当時、全世界に存在する金は約3万トンと言われており、米国は2万トン以上を保有していました。
ドルは金に裏付けられた「圧倒的に強い通貨」として世界の基軸通貨となりました。
しかし、1955年から始まったベトナム戦争によって状況が一変します。
戦費をまかなうため、米国は大量の国債を発行し、ドルを増刷。
その結果、ドルの信用が低下し、フランス・イタリア・ドイツなどの欧米諸国は、不安定なドルを手放し、金との交換を求めるようになりました。
米国の金準備は急減し、1973年には8000トン程度まで減少。
1971年8月15日、ニクソン大統領はドルと金の交換を停止し、これが「ニクソン・ショック」と呼ばれる出来事です。
ベテランの医師投資家は、覚えているかもしれません。
為替も変動相場へ移行したため、日本人にとっては、長らく固定されていた1ドル=360円の為替レートが崩壊したことが衝撃的でした。
以降、金価格は市場での取引によって決まるようになり、「金=安全資産」という認識がさらに強まっていくことになります。

2度のオイルショックによる金の急騰:需要の増加
1970年代、世界経済を揺るがしたのが2度のオイルショックです。
第1次オイルショック(1973年10月~1974年8月)、第2次オイルショック(1978年10月~1982年4月)では、原油価格が急騰し、世界的なインフレが加速しました。
原油価格の上昇によるコストプッシュ型インフレが深刻化し、物価が急激に上昇。
トイレットペーパーを求める人びとの列がメディアでも報じられ、覚えているベテランドクターも多いコトでしょう。
人々は貨幣の価値が目減りすることを恐れ、インフレヘッジとして金を求める動きが活発化しました。
この結果、1971年初めから1983年7月にかけて金価格は約11倍に上昇し、年率換算で約21%の上昇を記録。
金は「インフレに強い投資対象」としての地位を確立し、以降も経済危機や通貨不安が訪れるたびに、安全資産としての役割を果たすようになっていきます。

1983年~1999年の金価格低迷期:供給の増加
1980年代に入り、オイルショックによるインフレが落ち着くと、金価格は徐々に下落していきました。
当時のインフレ対策として米国は高金利政策を継続。
これにより投資家は金を売却し、より高利回りが期待できる米国債を購入する流れが生まれました。
さらにこの時期、欧米の中央銀行も年間200~500トンの金を市場に放出し、その資金で国債を購入。
金の供給が増え、価格が低迷する要因となりました。
しかし、1999年の金に関するワシントン協定(Washington agreement on Gold)によって、中央銀行の金売却に上限が設けられることに。
金市場への供給圧力が弱まり、金価格は再び上昇へと転じることになりました。

2003年に金ETFの登場:取引プレーヤーの増加
それまで金の取引は現物が主流であり、機関投資家が金に投資するには保管や管理の手間が大きな障壁となっていました。
しかし、2003年に金ETF(上場投資信託)が登場したことで状況が一変。
実物資産である金を金融商品として取引できる仕組みが確立され、機関投資家にとって金投資が容易になりました。
年金基金を中心とした機関投資家のみならず医師などの個人投資家も金市場に参入し、取引量が急増。
市場参加者が増えたことで金の需要も拡大し、価格上昇の要因となりました。

2008年のリーマン・ショック:通貨発行量の急増
2008年のリーマン・ショックは、金融市場に大きな混乱をもたらしました。
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当時、投資で大損をしたドクターの事が、医局でこそこそと話題にされていました。
大量の不良債権を抱えた金融機関を救済するため、FRB(米連邦準備制度)は前例のない規模でドルを増刷。
これによりドルの価値が低下し、代わりに「価値が変わらない資産」として金が買われ、価格が急上昇しました。
大量に増刷されたマネーは吸収されることなく市場に残り、金価格は長期的な上昇トレンドへと突入。
それまでの金価格の決定要因(需給バランスや取引プレーヤーの増加)に加え、法定通貨の増刷が新たな影響要因として加わりました。
以下の図がドル発行量と金価格のチャートです。

リーマン・ショック以降、各国の金融緩和が続く中で、金は「通貨価値の希薄化に対するヘッジ資産」としての役割をさらに強めていくことになったのです。

2010年からの中央銀行の金購入:需要の増加
それまで市場で金を供給する側だった中央銀行が、2010年から一転して金の購入を開始しました。
その量は年間500トンにも及び、全体の供給量の10%超を占めるほどの規模となりました。
これにより、市場の金需要は大きく押し上げられることになります。
特に金を積極的に購入しているのは、グローバルサウス(新興国)の国々です。
これらの国々は米ドルやユーロといった主要通貨への依存度を下げ、外貨準備の分散を進める目的で金を買い増しています。
リーマン・ショック後、金融市場が落ち着いたことで、一時的に金からマーケットへ資金が流出し、金価格は下落しました。
しかし2015年以降は再び上昇傾向に転じ、中央銀行の金買いが価格を支える要因となっています。

2019年コロナ・ショック:通貨発行量の急増
2019年に発生したCOVID-19パンデミックは、世界経済を急停止させました。
これに対応するため、各国政府は未曾有の規模で通貨を増刷し、大規模な金融緩和を実施しました。
増刷されたマネーは、株式・金・不動産といった資産市場へ流入し、価格は急上昇。
この頃から株式や不動産などに投資するドクターが、明らかに増えてきました。
金価格は静かに上昇し続け、安全資産としての価値が再認識されました。
さらに、時間差を置いてインフレが加速し、法定通貨の価値が低下。
インフレヘッジとしての個人の金購入も増加し、価格の上昇を後押しする要因となっています。

2022年ロシア・ウクライナ戦争:需要の増加
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済に大きな影響を与えました。
欧米諸国は制裁措置として、ロシアのドル資産を凍結し、国際決済ネットワークSWIFTから排除。
これにより、ドルを基軸とする金融システムへの信頼が揺らぎました。
この動きを見たグローバルサウス(新興国)の国々は、「ドル資産を持つリスク」を認識し、外貨準備として金を保有する動きを強めました。
その結果、中央銀行の金購入量は、それまでの年間500トンから1000トンへと倍増。
こうした中央銀行の積極的な金買いが金価格を押し上げる新たな要因となり、金はますます「価値の逃避先」としての役割を強めています。

これからは各国債務問題がテーマに
金はすでに史上最高値圏にありますが、依然としてさらなる上昇の可能性が高い状況です。
その最大の理由は、今後のテーマが「各国の債務問題」にシフトして来ているためです。
各国とも通貨供給量を増やす一方で、減らすことは困難になっています。
かつて注目されたMMT(現代貨幣理論)は、現実には通用しないことが証明されました。

以下の図は米国累積債務と金価格のチャートです。

特に米国の財政赤字は1兆ドルを超え、毎年新たな国債発行が不可欠な状況です。
さらに、国債の利払い負担も1兆ドル超となり、防衛費を超える規模に達しています。
これは、持続可能とは言えない財政状態です。
欧州も多くの国が同様の債務問題を抱えています。
緊縮財政で知られてきたドイツも、積極財政に方向転換しました。
日本は現在、低金利によって利払い負担を抑えていますが、将来的な金利上昇局面では同じ問題に直面する可能性が高いでしょう。
こうした状況が表面化すれば、投資家は国債を避け、安全資産である金に資金を移す動きが加速します。
その結果、金価格はさらなる上昇を続ける可能性が高いと考えられます。
まとめ
ここまで金価格の歴史を振り返り、今後の見通しについて考えてきました。
改めて、金価格に影響を与える要因を整理すると、以下の4つに集約されます。
1)需給バランス
2)取引プレーヤーの増加
3)通貨発行量
4)各国債務問題
これらの要因はすべて密接に関連しています。
各国の通貨過剰発行(3)が債務問題(4)を深刻化させ、その影響で機関投資家のみならず個人投資家も(2)金を求める動きを加速させています。
一方で、金の供給(1)は鉱山開発の制約もあり、増加ペースは限定的です。
短期的には価格の変動はあるものの、長期的に金価格が下落する明確な要因は見当たらないのが現状です。
むしろ、世界的な債務問題が深刻化する中で、金価格は今後も上昇し続ける可能性が高いと考えられます。
周りの医師投資家に金投資を勧めても「いや、今は金は高いから・・・」と躊躇するヒトがほとんどです。
昔の金価格を知っているドクターほど、今の価格では買えなくなっています。
しかし既にインフレフェーズに入った今、通貨価値の下落は進む一方。
少しでも良いので、資産保全のためにゴールドの購入を検討してみてはいかがでしょうか。

金価格の上昇要因について論理的に解説されており、大変勉強になりました。著者の『ゴールドの価格は永遠に上がると考えています』というコメントが印象的です。
マーケティング情報局様の記事「HPとは?ホームページの正しい意味と作成方法を詳しく解説」にて当ブログが紹介されました。