先日、World Gold Councilから2023年の金の需要動向レポートが発行されました。
金価格は上昇を続けています。
2023年はじめには、ドルベースで1オンス1,800ドル台、円で1g 8,500円台(税込み)だったのが、
今や2,000ドル、1万円を越え、歴史的な高値でキープしています。
2024年の金価格はどうなるのか?
今後の展望について、個人投資家の立場で分析します。
結論は金需要は今後とも底堅く推移し、さらに上昇すると思います。
個人投資家の分析ですので、判断は個々人でお願いします。詳細なデータは原文を当たってください。
●金価格は何で決まるか?
需要と供給のバランスで決まります。
供給は金鉱山から3,644トン、リサイクルは1,237トンで、誤差はありますが合計4,898トンと例年並みでした。
金供給量は、ココ10年ほど大きく変化していません。
豊島さんは今後とも金供給は増える可能性あると書かれていましたが、需要の増減に比べれば微々たるモノです。つまり、
金を買う人が多い/売る人が少ないと値段が上がり、
買う人が少ない/売る人が多いと下がる、という需要に依存する構造になっています。
●金需要
誰がゴールドを買っているのでしょう?
World Gold Councilでは4つのカテゴリーに分けており、取引主体が異なります。
ジュエリー・宝飾品
主に消費者により購入されます。
投資用(現物・ETF・OTC)
現物(延べ棒・コイン)は主に個人投資家やプライベートカンパニー、ETFは機関投資家が扱います。
OTCはover the counter(対面取引)の略で、卸業者の購入を反映しています。
工業用
半導体メーカーや歯科などが購入します。
中央銀行
自国通貨の担保や外貨準備として購入しています。
売買主体による傾向
それぞれ特徴が異なります。
消費者主体のジュエリーは、景気と金価格に敏感に反応します。景気が良いと買う人が増え、悪くなったり金価格が高騰すると手持ちのネックレスなどを売りに出す人が多くなります。
個人投資家が主体の延べ棒・コインは、安定的な買いが入りやすく、景気にあまり左右されません。価格上昇では買い控えが起こりやすいです。また一旦購入すると、滅多に売りません。
ETFは年金基金やファンドが扱いますが、特にファンドは3ヶ月ごとに利益を確保する必要があるため、活発な売買が行われます。一方年金基金はゆっくりとした売買になります。
工業用については、半導体関連は景気の影響を受けやすい分野ですが、年度ごとの増減は少ないカテゴリーです。
中央銀行は世界情勢や自国の経済状態により売買しますが、一度買ったらよほどのことがないと、売りません。
以下に詳細を記します。
●ジュエリー・宝飾品
二大消費国は中国とインドです。
中国はコロナによる規制が解除され、若干増加しました。
インドは金価格高騰の影響を受け、若干減少しました。
全世界的には20,926トンと2022年同様ですが、金価格の上昇を受け、1990年代~2000年代の勢いはありません。
さらにインフレによって消費者のフトコロは厳しさを増しています。
高級品を買う余裕はなく、需要は今後減少してゆく可能性が高いと見ています。
●延べ棒・コイン
ヨーロッパでの需要急減により、全体で1,189トンと前年より減少しました。
金選好が強い中国とインドは、前年より増加しています。
トルコも、高いインフレ率(年40-60%)と2つの戦争の影響で、高い伸びを示しました。トルコリラで給料をもらったら、すぐにドルや金に換える人が多いのです。
金を比較的好むEUですが、2023年はガクッと需要が落ち、特にドイツが顕著です。ウクライナ戦争と高いインフレ率が、需要を押し下げました。同じ高インフレでも、トルコとヨーロッパで異なる動きをしたことが興味深いです。
全体の傾向として個人投資家の購入意欲は高く、一般消費者との意識の差が開いています。
●ETF
ETFはマイナス244トンと、2022年よりも金が流出しています。機関投資家がポートフォリオのリバランスや益出しのために、売ったようです。
機関投資家は、個人投資家とは異なる投資パターンを取ります。
●OTC
今年のレポートで、特に注目しているカテゴリーです。
2023年は450トンと、2022年の52トンの8倍にもなりました。
OTC増加はETFの減少を補って余るほどで、金価格上昇に一役買っています。
そのため、2022年のレポートでは”ETF and OTC”と記載されていましたが、今回はOTC単独で言及しています。
金の需給統計を正確に算出するのは不可能で、必ず総需要と総供給に差が出ます。それをOTCとして調整しています。
OTCは基本的に卸売りとされていますが、匿名による売買もあり、不透明なカテゴリーです。
豊島さんは富裕層が爆買いしているためと解説しています。
ただ推察ですが、近年の地政学的変化を鑑みると、国家が匿名で金を買っている可能性もあると見ています。
●工業用
コロナ規制が明けて半導体生産増加が期待されましたが、297トンと昨年より低くなっています。
2024年はAIの流れに乗り、半導体の生産増加から工業用金需要も増えてゆくと見られています。
●中央銀行
全ての専門家が注目しているカテゴリーです。
2022年1,081トン、2023年1,037トンと2年連続で1,000トンを越える需要がありました。2021年までは平均500トンであったため、2倍にも上ります。
中央銀行は、2009年までは売り越していましたが、2010年以降買い越しに転じています。
近年の金価格上昇は、中央銀行の購入増加が大きな原因と言われています。
さらに2022年から急増した理由は、ロシア・ウクライナ戦争での「有事の金」買いです。
さらにロシアがSWIFTから排除され、外貨準備のドルを使えなくなりました。
他国は、米国に逆らったらドルが使えなくなる恐怖を目の当たりにし、代替通貨としての金の購入量が増えました。
中央銀行は、特別な場合を除いて金を売りません。
ドルへの不信感は今後とも続くため、価格が下がったらすかさず買いに入り、金価格を下支えすると予想します。
●日本はどうなっている?
金市場の中で、日本の存在は高くありません。それでも2023年は需要が増えてきています。
全世界的にジュエリーの売れ行きが鈍る中、日本は前年比6%増の16トンと好調です。特に「喜平」タイプという、18K~24Kの高純度(24Kが純金)のネックレスが人気で、ファッションと投資を兼ね備えた買い方をしているのが特徴です。
延べ棒・コインは-2トンと売り超でしたが、インフレによる購買意欲が強くなっています。
総じて、金高騰で高齢者が売り、インフレ不安から若者が買っている構図で、今後とも続くと考えます。
個人が金を買っている中、日銀は購入していないようです。
●まとめ
改めてレポートを読むと、金需給は世界情勢と金融政策に大きく影響を受けています。
金価格は金利上昇で下げ、下降局面で上がる傾向があります。
しかし2023年は利上げにも関わらず、底堅く推移しました。
主な要因は中央銀行の需要増加です。
世界情勢は今後も混沌とすると思われ、また2024年は利下げが予想されているため、金は上昇すると予想します。
金価格は世の中を映す鏡です。今後とも目が離せません。
World Gold Councilでも働いたことのある専門家の著書です。