2024年7月~9月までの金需要動向レポートが、World Gold Council(WGC)より発表されました。
第3四半期としては過去最高の需要となり、金価格も過去最高を記録しました。
金にはPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの指標がないため、需要が供給を上回れば上がり、下回れば下がります。
つまり今年の7月~9月は、ゴールドを欲しいヒトが多くいたことになります。
需要増加の要因としては金ETFへの資金流入、OTCの増加が要因です。
各セクターの需給動向を解説し、私見も交えて今後の見通しについて述べたいと思います。
ジュエリー(宝飾品)
金といえばやっぱりジュエリー。全体の45~50%を占めます。特に中国とインドで強い引き合いがあります。
ジュエリー用の需要は458.6トンと、前年同期より12%低下しました。これは金価格上昇により、純金宝飾品より18Kや14Kと金比率の低い商品が好まれたためです。
国別では、世界一の消費国の中国は減少し、二位のインドは金輸入関税を下げたことで増加しました。
米国と欧州は例年並みで、中東とトルコは減少しています。
中国を除くアジアはやや低下しました。
今後の見通し
景気が良いとジュエリーにもお金かけようと思いますが、不況ではぜいたく品への支出が減ります。
今の中国がこの状態でしょう。
欧州でも景気減速が見られており、今後宝飾品の需要は減少してゆくと考えます。
投資
投資用の需要は364.1トンで、前年同期比132%と大幅に上昇しました。
金の延べ棒、金貨、金ETF、OTCがこのカテゴリーに入ります。
延べ棒と金貨は代表的な実物資産として全世界で需要があります。
2024年第三四半期は両者とも減少しています。国別では中国、トルコ、欧州で減少し、インドでは関税引き下げにより増加しています。
金ETFは実物資産と言うより金融資産で、年金基金やヘッジファンドに人気です。
こちらはアジアで横ばい、欧州で減少でしたが、米国で急増しました。
その結果、投資カテゴリーの需要を押し上げました。
OTCはover the counter(相対取引)の略です。富裕層などが店頭で買うイメージ。今期は横ばいで推移しています。
今後の見通し
2024年11月上旬に金価格は上昇しましたが、その後調整に入っています。
金は利上げで下がり、利下げで上がる傾向があります。今期のETF需要の増大は、FRBの利下げが影響しています。
OTCも地政学リスクが意識され、富裕層を中心とした買いが継続しています。
今後については全世界的な利下げに乗って、投資用ゴールドは波動を描きながら増えて行くと考えます。
中央銀行
中央銀行の金需要は186.2トンと、前年同期比マイナス49%でした。
金価格上昇から購入量が相対的に減った結果と考えられます。
購入の多かった国は、ポーランド、ハンガリー、インド、アゼルバイジャン、トルコです。
今後の見通し
ウクライナ侵攻によりロシアはSWIFTより排除され、ドル資産の売買が出来なくなりました。
多くの国が、資産をドルだけで保有するリスクを目の当たりにしました。
そのためグローバルサウスは、ドルの代わりとして金の保有を増やしています。
昨今の金価格上昇により、予算内で購入できる金の量が少なくなっていますが、今後とも各国中央銀行の金需要は、高止まりすると考えます。
テクノロジー
工業用の金需要は83.0トンと、プラス7%でした。
金は半導体や歯科分野での一定の需要があります。
今期目立ったのは、AI投資による半導体需要です。
今後の見通し
半導体製造機器メーカーASMLの決算でも示されましたが、半導体全体では需要減が見込まれます。
しかし高性能半導体メーカーTSMCの好決算に代表されるように、AI関連需要は依然高く、今後順調に推移すると思われます。
供給
供給量は1133.0トンで、前期比プラス5%でした。
金の供給は、鉱山とリサイクルです。
鉱山生産はプラス6%、リサイクル金はプラス11%と、両者とも増加しました。
鉱山は過去最高の供給量となっています。要因の一つが、採算がとれる金脈が増えてきたこと。
リサイクル金は、日本ではスマホなどが供給源ですが、中国などでは型落ちのジュエリーから出てきます。
今後の見通し
鉱山生産は金価格上昇により、コストがかかる深い金脈からも掘り出せるようになり、今後とも少しずつ増えるでしょう。
リサイクル金も、買い取り価格上昇で増える素地はありますが、型落ちジュエリーなどの在庫減少から、第4四半期は減少する見通しです。
今後の金価格は?
金価格は10月31日に1g=15,162円を付けた後、下がっています。
これは米国大統領選のトランプ氏勝利により、
金に流入していた資金がビットコインに流れたためではないか、と言われています。
トランプ氏は「米国を仮想通貨の首都に」と訴え、ビットコインの追い風になりました。
金価格は短期では上下しますが、もともと長期に保有すべき資産です。
10年単位での金価格について、WGCからレポートが出ています。
1971年のニクソン・ショック以降、ドルベース金価格は年8%で上昇しています。
ニクソン・ショックとは、金とドルが交換停止され、変動相場制への移行を発表した、既存の世界秩序を変革する大きな方針転換です。
それまでは金 1オンス=35ドルに固定されていましたが、ニクソン・ショックで、金の価格も変動することになりました。
1971年以降の世界の金融資産(株や債券)の成長率は年10%でした。
金も株も米国平均インフレ率の3.9%を上回っており、いずれも物価上昇に強い資産と言えます。
レポートによると、金価格に影響を与える要因は2つで、1)GDP成長率、2)金融資産上昇率です。とくにGDP成長率と強い関連を持ちます。
回帰式も以下のように示されています。
金の年間収益率=2.837×世界名目GDP成長率-1.079×世界金融資産成長率
予想GDP成長率(5.24%)と予想金融資産成長率(8.98%)を入れると、今後15年の金収益率は5.24%と計算されます。
成長率からは株や債券などの金融資産が高いリターンを示していますが、ボラティリティー(上下動)が大きく、リターンが不安定になります。
そのため金融資産と別の動きをする金を加えて、リスクを下げながら高いリターンを得るポートフォリオを作成する手もあります。
ピクテの動画では、金:米国株=50:50が良いと言われています。
個人投資家には大いに参考になる配分と思います。
まとめ
金はもともと長期投資向けの資産です。
世界GDPの成長に伴って、インフレ率を上回るリターンを得ることが期待されます。
ただ人間は目の前の値動きに一喜一憂してしまいます。
短期の金価格を予想するのは難しいですが、歴史を振り返ってみます。
リーマンショック時、コロナショック時も、金価格は株と同様に下がりました。
しかし株価よりも早く回復しています。
個人的に景気後退から金融危機が近々起こると想定していますが、同じようになるのでは、と考えています。
需給データを見ても、金需要は衰えていません。
価格上昇により購入量は減ったカテゴリーもありますが、これは通貨価値が下落しているコトを意味します。
日本では10月の衆院選で与党が過半数割れを起こしたため、野党の要求を受け入れ、財政出動が増えてくるでしょう。
米国もトランプ氏は景気刺激策を公約としており、バラマキが始まるでしょう。
MMT(現代貨幣理論)では、ドルや円はいくら増やしても悪影響が出ないと述べていましたが、
インフレが進み、中央銀行が利上げをしても未だ収まらず、国民は生活苦にあえいでいます。
MMTは崩壊しました。
以上を加味すると、景気後退による一時的な下落の後は長期的な上昇フェーズに入ると予想します。
金価格は円建てもドル建ても市場高値を更新していますが、ドルコスト平均法で買い増す戦略を続ける予定です。
MMT(現代貨幣理論)がなぜ破綻したのか?MMT論者の著作を読んで、じっくり考えると答えが出てきます。