こんにちは、山のクマです。
突然ですが、皆さん外来って好きですか?
わたしは結構好きなんですが、中には疲れる患者さんもいます。
また診断が外れたり、患者が集まらなかったり。
具体的な対策は個々の事例で違うんですが、基本的な心構えを抑えておくと、ダメージが尾を引かないかなと思うんですよ。
そう思っているとき、2つの本と出会いました。
半径3メートルの倫理
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仕事に悩む君へ はたらく哲学
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日常生活でのモヤモヤを、哲学で解決しようと言う提案です。
なかなか面白かったんですよ。
哲学書・思想書って、何となく取っつきにくいんですけど、
内容が高度に抽象的なので、様々に読む事が出来るんですね。
これは「学問」で終わらせるのはモッタイナイ!
生活に活かしてこその哲学・思想です。
今回臨床現場で遭遇するモヤモヤ・イライラに、じぶんなりの答えを見つけてみました。
学術肌の人から見ると「そんなこと言っているんじゃあない!」とおしかりを受けそうですが、
著者の意図から外れない限り、生活に活かすなら、アリじゃあないかと思っています。
ナゼ患者はクスリを飲みたがらないのだろう?
たくさんいます。
高血圧、高血糖、高脂質を指摘されて来ても、クスリは飲みたがらない。
「脳卒中、心臓病、腎臓病などを起こす可能性が高いですよ」と説明しても納得しない。
だからといって、自分で食事内容を変えたり、運動もしない。
医者としてはイライラが募るばかりです。
何でだろう・・・。原因が分からないと気持ち悪いんですよ。
ココで登場するのが精神分析学の権威、フロイト。
精神分析入門(上)
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医者はフロイトを知っていると思います。
でも「エディプスコンプレックス」や「父親殺し」など、訳の分からない概念ばかりで、スルーした人も多いはず。
彼の言いたいことを今風に表すなら、
人間は成長過程で獲得した快楽原理で行動している。しかし快楽原理は無意識領域に押し込まれているため、自分でも自覚することは出来ない。
自覚できない行動原理は、他人も分からないんです。
生活指導がほとんど効果を出さないのは、コレが理由。
じゃあ、医療者は無力なのか?そうではありません。
自分が大病を患う、身内が心臓病や脳卒中になる、など、目の前で生活習慣病と関連疾患の繋がりが明らかになると、積極的に治療するようになります。
本人がやる気にならないと、ダメなんですよね。
医者としては繰り返し治療の必要性を説明して、やる気になったら開始するのが重要だと思います。
あまりキツく指導すると、クリニックに来なくなっちゃうので、ソフトにやるのが良いのかなーと思っています。
統合失調症は苦手で・・・
こんな風に思っているドクターは多いんじゃあないでしょうか。精神科の先生は別にしてね。
なぜなら、どのような反応が返ってくるか分からないから。
相手の動きが読めないと、不気味に感じます。
ココで登場するのが、同じく精神分析家のラカン。
生き延びるためのラカン
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臨床医なんですけど、現代思想に大いに影響を与えました。
ラカンは無意識を、自分の快楽を中心とした言葉のネットワークと考えました。
統合失調症はそのネットワークが切れ、言葉が単体で浮遊している状態。
こう考えると、統合失調症の患者さんの反応が腑に落ちるんですよ。
医者が質問しても、彼ら・彼女らは「アサッテ」の方から返答します。
話の流れを完全に無視する。コレが反応を読めない原因です。
幻聴も、ネットワークの切れた言葉が頭に浮かぶことで起こると考えることができます。
我々は、ポンッと変な考えが浮かんでも「オレ何考えてるんだろう?」で終わり。浮かんだ言葉が自分のモノと分かっているから。
統合失調症のヒトはポンッと浮かんだ考えが自分とつながっていないため、妄想や幻聴として認識されます。
また言葉の繋がりが切れているため混乱し、思考障害が出てきます。
もちろん、症状の全てをラカンで説明できるわけではないようです。
でも、外来で彼らに対応するにはとても便利です。少なくとも苦手意識は減弱します。
患者来ない・・・俺ってダメ?
患者の診断、処置には自信がある。機関病院でも大いに頼りにされていた。
でも開業してもさっぱり儲からない・・・。
マーケティングの問題なんですが、周りはぼろくそに言いますし、落ち込みます。
自分に価値はあるんだろうか・・・。
そんな時にはマルクスの資本論。
資本論
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いや、ワタシ左翼じゃないですよ。
コレは資本主義の解体新書として読むと面白いんです。
たくさんの知見がつまっているんですけど、クリニック経営では「商品の二面性」に注目すると良いかと。
開業医が提供しているのは、医療サービスという商品です。
商品には「使用価値」と「交換価値」の二面性があるんですね。
使用価値はもちろん患者治療のウデ。
交換価値は医者の腕がマネーと交換できるコト。
流行っていない開業医は、使用価値はしっかりあるんだけど、交換価値が低い状態です。
別に医者自身が悪いわけではない。
交換価値を高めればイイんです。
・専門性が高いなら大都市で開業する
・一般的な疾患にも対応する
・コミュ力を磨く
・専門性をネットなどでアピールする・・・。
方策はイロイロ出てきます。
自分に価値がないと思うとガッカリしますけど、
「交換価値」のみが問題なら、やる気出ませんか?
でも、資本論って、本当に読みにくい・・・。
おかしいな・・・診断合っていると思ったのに・・・
問診、診察、検査から病名を導く。内科診断の醍醐味です。
でも往々にして間違えるんですよ。
そんな時はガックリきますね。
でも偉人カントは「純粋理性批判」で、理性もミスると喝破しています。
純粋理性批判
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知性の最高峰である論理を用いても、全く別の結論が導かれてしまう。
コレがアンチノミーです。
医者の診断も最初は推論。間違えるのは当たり前なんです。
そのために鑑別診断が必要。
医者も謙虚に診療しないと・・・。
精神的に疲れたな・・・
診療やっていると、上手くいかないこともあります。
患者から心ない言われ方をすることもあります。
イライラして家に帰っても、頭にモヤモヤが残って、疲れがとれません。
そんな時にはブッダの言葉が役に立ちます。お釈迦様ですね。
原始仏教
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仏教から宗教的な部分を置いておいて、思想書として読むと、結構良いこと書いてるんですよ。
その最たるモノが「諸行無常」。この世の全てのモノは常に変化している。
モヤモヤも同じで、いずれなくなります。
何度も思い出してしまうのは、脳の仕組み。思い悩んでも仕方ないのです。
嫌な気持ちを手放すのには、ぼーっとしたり、趣味に没頭したり、自然と接したりするのもイイですね。
じぶんはお風呂がお気に入り。イヤな気持ちも一緒に流して、また新鮮な気持ちで診療に取り組めます。
クリニックを長続きさせるコツだと思うんですよね。
まとめ
哲学・思想書って、小難しく感じるし、理解するのは骨が折れます。
でも思考回路を自分のモノに出来ると、ものすごく応用範囲が広がるんですよ。
個別にいちいち考えるより、よほどコスパが良い。
だから古典として読み継がれてるんだと思います。