2024年の金市場は、記録的な価格と堅調な需要によって注目を集めました。
ドクターの中でもETFを中心に、金への投資を行っている人が増えています。
World Gold Council(WGC)の最新レポートによると、年間平均金価格は1オンスあたり2,386ドルと、前年比+23%の大幅な上昇を記録しました。
総需要は4,974トン(前年比+1%)に達し、2000年以降で最も高い水準となっています。
需要増の背景には、中央銀行による積極的な買い増しと、投資家を中心とした金ETF購入があります。
供給面ではリサイクル金の増加が市場を支え、前年比+1%の4,975トンとなりました。
金には株のPER(株価収益率)の様な指標がないため、需要>供給なら価格が上昇し、需要<供給なら下がります。
そのため需給動向は、金価格に大きな影響を与えます。
本記事では金の需給動向を詳しく解説し、今後の価格見通しについて考察していきます。
多くの医師投資家の方々にも参考になるでしょう。

需要
金の需要はジュエリー、投資、テクノロジーの3つのカテゴリーに分類され、それ以外の需要はOTC(店頭取引)として扱われます。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
ジュエリー需要
2024年のジュエリー需要は前年比-11%の1,877トンと大幅に減少しました。
しかし金額ベースでは+9%(1,440億ドル)となり、数量と価格のギャップが生じています。
要因は、金価格の高騰とインフレによる生活コストの上昇です。
ドクターの多くも、インフレにアタマを悩ませています。
消費者の購買意欲が低下し、世界的にジュエリー需要は減少傾向にあります。
世界最大の消費国である中国とインドの動向は以下の通りです。
・インドは前年比-2%と比較的軽微な減少にとどまりました。これは金の関税大幅引き下げが需要を下支えしたためです。
・一方、中国は-24%と大幅減少。景気後退の影響で急減しました。
2025年も高価格と経済の不透明感が続くため、ジュエリー需要の回復は難しいと予想されます。

投資需要
2024年の金の投資需要は1,180トン(前年比+25%)と大幅に増加し、4年ぶりの高水準となりました。
医師も含めて投資家の関心が高まり、市場に強い追い風が吹いています。
需要増加の背景には、以下の3つの要因があります。
1. 地政学的不確実性:世界各地での政治・経済リスクが高まり、安全資産としての金の魅力が増した。
2. 金利低下の見通し:米連邦準備制度(FRB)をはじめとする各国の中央銀行が利下げに動くとの期待から、無利息資産である金への投資が加速。
3. 好調な金価格:金価格の上昇トレンドが続き、投資家がさらなる値上がりを見込んで買いを進めた。
ではETF、ゴールドバー・コイン、中央銀行のカテゴリーについて見て行きましょう。
ETF
過去3年間、-200トン程度と大幅な資金流出が続いていた金ETFですが、2024年は-6.8トンと、僅かな減少にとどまりました。
特に10月~12月期には+19トンと純流入になり、投資家のスタンスに変化の兆しが見えています。
このETFの安定化が、投資需要全体の押し上げ要因となりました。
金ETFは機関投資家や個人投資家にとって手軽に金へ投資できる手段であり、医師投資家にも人気です。
2025年に向けて、さらなるETFの流入が期待される要因は以下の3つです。
1. 金利低下:米FRBをはじめとする各国の利下げが、金利を生まないゴールドには追い風となる。
2. ドル安:通貨価値が下がると金の相対的価値が高まり、資金が流入しやすくなる。
3. 地政学リスク:世界の不安定要因が増す中、安全資産としての金が再評価される。
この流れが強まれば2025年通年で純流入へ転じ、金価格を押し上げる可能性もあります。

ゴールドバー・コイン
2024年のゴールドバー・コイン需要は1,186トンと前年並みでしたが、ゴールドバーは増加した一方で、コインは減少しました。
地域別に見ると、インド(+29%)と中国(+20%)は堅調に増加。
これは、地政学的リスクや通貨価値の不安定さを背景に、投資家が実物資産を求めたためと考えられます。
一方、米国(-33%)と欧州(-50%)では大幅に減少しました。
コインは欧米で人気の商品であり、同地域の減少を反映しています。
ちなみに数年来純流出が続いていた日本ですが、2024年になりプラスに転じています。
医師も含めて日本人も、金投資に積極的になってきた様子がうかがえます。
大局的に見ると、G7諸国は金を売り、グローバルサウス(新興国)は買い増しているという構図が浮かび上がります。
2025年の見通しも、2024年と同様に地域ごとの温度差が現れそうです。

中央銀行
2024年の中央銀行による金の純購入量は1,045トンとなり、3年連続で1,000トンを超えました。
金価格上昇のため、事前には1,000トンを越えないだろうと予想されていましたが、大台を超えてきました。
これは2021年までの平均500トンと比べて倍増しており、しかも金価格ベースでは+20%超になっているため、各国の積極的な金準備が拡大している事を示しています。
主要な購入国はポーランド(90トン)、トルコ(75トン)、インド(73トン)です。
2025年も地政学リスクの高まりを受けて、特にグローバルサウスの中央銀行は引き続き金を購入する見込みです。
OTC
2024年のOTC(店頭取引)市場は年間420トン(前年比-7%)と減少傾向にありました。
特に10月~12月期は-86%と急減し、一部の投資家が利益確定の売りに動いたことが影響しています。
OTC市場は主に機関投資家や富裕層による大口取引が中心であり、市場のセンチメントを敏感に反映する傾向があります。
2025年の見通しは金利動向、地政学的リスクなど、市場環境次第でしょう。
テクノロジー需要
金はエレクトロニクス分野を中心に重要な素材として活用されており、AI関連の成長が市場を押し上げています。
2024年のテクノロジー需要は前年比+7%の326トンとなり、近年の減少傾向から反転しました。
この増加を牽引したのは、AI関連インフラ(データセンター向けサーバー・半導体)の需要拡大です。
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医療現場でもAIは導入されはじめており、多くのドクターも使っていることでしょう。
AI関連株は既に割高となっていますが、その周辺に投資のネタは転がっています。
2025年はAIインフラ投資の継続により、金需要も堅調に推移すると予想されます。

供給
金の供給は主に鉱山生産とリサイクル金の2つから成り立っています。
2024年はリサイクル金の増加が供給全体を押し上げる要因となりました。
金鉱山
2024年の鉱山生産量は3,661トンと前年と同水準にとどまりました。
金価格の高騰が生産拡大を後押しする一方、鉱山の品位低下(鉱石1トンあたりの金含有量の減少)や主要鉱山の生産量低下といった課題が浮上しています。
2025年の鉱山生産は高価格を背景に安定する可能性が高いですが、埋蔵量低下など、供給拡大には限界があります。
そのため次に挙げるリサイクル金が、供給動向に影響を与えるポイントとなりそうです。

リサイクル金
2024年のリサイクル金の供給は1,370トン(前年比+11%)と増加しました。
金価格の高騰と経済の低迷が背景にあり、多くの個人や企業が金ジュエリーを売却したためです。
2025年は引き続き高価格がリサイクル供給を後押しすると予想されますが、
中国・欧米のジュエリー市場が低迷しているため、そこからのリサイクル供給が不足する可能性が懸念されています。
リサイクル金は景気動向次第で供給量が変わりそうです。

WGCレポートに含まれていない要因
2025年に入り、金は新たな局面を迎えています。
現物金の減少
ロンドンの現物金在庫減少が話題となり、金価格が急上昇しています。
特に、1月末からの金価格高騰は、以下のような報道によって加速しました。
・ロンドンの金不足は単なる関税の恐怖なのか…それとももっと何かあるのか?
・フィナンシャル・タイムズの「不足」主張で金価格が過去最高値を記録
この背景には米国の関税政策(トランプ関税)が関係しているとも言われ、関税発動前に金が米国に急いで移動した結果、一時的にロンドン市場の在庫が減った可能性があります。
金輸送が落ち着くと、価格が下落するかもしれません。
短期的な価格変動に振り回されず、長期的な視点で金市場の動向を追うことが重要となります。

金取引量増加と米国債務
萩野琢英さんと亀井幸一郎さんのYouTube対談動画で、1日当たりの金取引額が米国債を超えたと話題になっています。
金を買うヒトの裾野が広がっていることを示しています。
また2025年の金市場のテーマとして米国政府の赤字が挙がっていました。
医師投資家にとって、米国累積債務も注目する必要があります。

まとめ
2024年は金投資にとって「最良の1年」となりました。
中央銀行の積極的な買いが価格を押し上げ、それがさらに投資家の買いを呼び込む好循環が生まれました。
今後の見通しも依然として強気です。その理由は以下の通りです。
1. 株式市場の不安定化:投資家が「質への回帰」として金に資金を移し始めている。
2. 地政学的リスクの増大:トランプ大統領の誕生により、世界の政治・経済リスクが高まり、安全資産としての金がさらに注目されている。
3. 金鉱山の供給リスク:一部の鉱山で金鉱石の品位が低下し、供給増加が見込めなくなっている。
4. 世界的な通貨価値の下落:インフレや財政赤字拡大の影響で、各国通貨の購買力が低下し、金の価値が相対的に上昇。
5. 中央銀行の買いが継続:2025年以降も、各国の中央銀行が金準備の拡大を進めると予想される。
短期的には価格変動が激しくなる可能性があるものの、10年以上の長期で見れば金価格は上昇を続ける可能性が高いと考えられます。

医師に人気の投資対象は株と不動産ですが、経済の不確実性が高まる中、資産の一部を金で保有することが、リスク分散につながります。
安定した資産形成のために、ポートフォリオへの金の組み入れを検討するタイミングかもしれません。
「今われわれは、歴史の転換点にいる」と警告を発した名著。