1週間で9.6%の大暴落|2008年以来、歴史的な「金の週間下落」を記録
先週(2026年3月16〜20日)、金相場が大きく揺れました。
国際金価格は1週間で約9.6%下落し、1オンスあたり4,563ドルで引け、週明けには4,200以下まで下落しました。これは2008年10月のリーマンショック直後以来、最大の週間下落幅です。年初から順調に上昇してきた金でしたが、年初来の上昇幅をほぼ消し去りました。
「金は安全資産なのに、なぜ急落するの?」と思われた方も多いのではないでしょうか。
今回はWorld Gold Council(WGC)のレポートを元に、解説します。
https://www.gold.org/goldhub/gold-focus/2026/03/weekly-markets-monitor-testing-golds-resolve
金価格は一時的に急落しましたが、実需と長期的な構造要因により、資産防衛の価値はむしろ高まっています
- 2026年3月の金急落:週間下落率9.6%(4,563ドル/oz)を記録。リーマンショック直後の2008年以来、最大の下落幅となった。
- 急落の3大要因:FRBのタカ派姿勢による米金利上昇、中東情勢(ホルムズ海峡)緊迫による原油高、および米金ETFの大規模な解約売り。
- 投資行動の東西格差:欧米の機関投資家が利益確定売りを進める一方、中国の個人投資家や中央銀行は「押し目買い」を継続。
- 今後の展望:短期的にはボラティリティが高いものの、スタグフレーション懸念や地政学的リスクを背景に、金の長期的な支持要因は不変。
- 実物資産への回帰:田中貴金属などの店頭では一般生活者による購入行列が発生しており、資産防衛手段としての需要が強まっている。
なぜ金は売られたのか?相場を押し下げた「3つの逆風」
今回の急落には、いくつかの要因が重なっています。
まず、米国の金利上昇です。FRB(米連邦準備制度)はインフレを抑えるためにタカ派的な姿勢を維持し、利下げへの期待が一気に後退しました。
金利が上がると、利息を生まない金の魅力は相対的に薄れ、売られやすくなります。
次に、中東情勢の複雑化です。ホルムズ海峡をめぐる緊張が続いており、原油価格が急騰。これがインフレ長期化への懸念を強め、FRBがさらに利上げに動くかもしれないという観測につながりました。
そして、ETFの大規模な解約売りです。特に米国の金ETFから資金が急速に流出し、相場を一段と押し下げました。
WGCは、こうした動きが「2008年・2020年のリスクオフ局面に似ている」と指摘しており、長期的視点よりも短期的視点が一時的に相場を支配したと見ています。
欧米は「売り」中国は「買い」──鮮明になった投資判断の東西格差
興味深いのは、地域によって全く逆の動きが起きていることです。
欧米では機関投資家が金ETFを解約し、利益確定の売りが相次ぎました。ところが中国の個人投資家は逆行して、金ETFへの買い増しを続けています。
また、欧米の利用者が多いCOMEX先物市場でも、大口投資家のネット買い越しが7週ぶりの高水準に回復しています。
「急落=売り時」と判断する欧米機関投資家と、「急落=買い場」と判断する中国の個人投資家。この東西の温度差は、金市場の底堅さを示している側面もあります。
今後の焦点は「スタグフレーション」|地政学リスクと金の長期的な価値
今後の金相場を占ううえでの最大の焦点は、中東情勢の行方です。
ホルムズ海峡の封鎖が解消されれば、エネルギー懸念が後退し、金相場の重荷が軽くなる可能性があります。
一方で、封鎖が長期化すれば物価と不況が同時進行する「スタグフレーション」のリスクが高まります。
実は金は歴史的に、スタグフレーション局面で強いパフォーマンスを発揮してきた資産です。
WGCは今回のレポートで、「短期的な衝撃はあるものの、多極化・地政学的断絶・財政悪化という長期の構造的支持要因は変わっていない」として、金の長期的な役割は揺るがないと述べています。
【現地レポート】3月22日の田中貴金属──「普通の生活者」が列をなす異変
急落報道が続くなか、私自身は「これは買い時」と考え、3月22日に田中貴金属を訪れました。そこで目にしたのは、想像以上の光景でした。
開店前に到着したにもかかわらず、店の前にはすでに行列ができていたのです。隣に並んでいた方々に話しかけてみると、目的はみな同じ──金の購入でした。
開店後に整理券を受け取りましたが、案内までの待ち時間はおよそ40分。それでも誰一人その場を離れようとしませんでした。
ふと周りを見渡すと、スーツやドレス姿の方はおらず、買い物帰りのような装いの方、年配のご夫婦、働き盛りの男性など、ごく普通の生活者ばかりです。
以前であれば、金現物を買いに来るのは一部の資産家や投資通だけというイメージがありました。
ところが今や、普通の生活者が「資産を守るために金を買う」時代が来たのだと、行列を見ながらしみじみ感じました。
WGCのデータでも、中央銀行による金購入の継続が報告されています。そこにこうした個人投資家の現物需要が加わるとすれば、短期的な価格の上下はあっても、金の需要基盤は確実に厚みを増しているのだと思います。
急落は絶好のチャンスか?「資産防衛」としての金保有を再考する
今回の急落は、確かに短期的には痛みを伴うものでした。しかし振り返れば、金はリーマンショック後も、コロナショック後も、流動性不安による一時的な急落の後に長期上昇へと復帰してきました。
焦って手放すのではなく、金を保有する「理由」を再確認することが、こうした局面での正しい向き合い方ではないでしょうか。
貴金属店の行列は、歴史的に見ると「一般大衆が現物を買いに走る」現象で、相場の天井サインと解釈されることもあります。
しかしインフレが続く今、彼らの方が過去の事例より正しいのかもしれません。
田中貴金属の行列に並んでいた方々の静かな眼差しが、そのことを改めて教えてくれた気がします。
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。
金投資は長期的視点が大切です。



