今年度に入り、金価格は大きく動いています。
15年ほど金マーケットを見ていますが、これまでにない荒っぽい値動きです。
以前1日10円動くと驚きましたが、最近は100円~200円動く日も珍しくなくなりました。
ドルベースでは1オンス2,300~2,400ドルと高値安定ですが、
円ベースでは1g 11,000円から13,000円台へと大きく上昇した後、12,000円台に下がってきました。
要因は円安です。
今後の金価格を占うため、現状の分析を行いました。
金の統計は、全世界の金流通の調査を行っているWorld Gold Council(WGC)のレポートが便利です。
先日発表された今年第二四半期のレポートでは、次の点が特に注目でした。
・中央銀行と匿名の取引(OTC)が増加し、金価格上昇の要因となっている
・2005年以来金取引の中心だった欧米のファンドの影響力が低下している
・宝飾品の売り上げが減少し、世界経済の減速が明らかとなっている
さらに世界情勢も大きく動いています。
今回のブログでは現状の分析を行い、今後の金価格を占います。
結論から申し上げると、短期的に下落した後、長期では上昇すると考えます。
●2024年第二四半期の金動向
WGCのレポートでは、需要をジュエリー、投資、中央銀行、テクノロジー、OTCの5分類、供給は鉱山、リサイクルの2分類としています。
詳細なデータは、レポートを直接参照してください。
ジュエリー
前年同期の479.4トンから390.6トンへと大きく減少しました。
全世界的に減ってますが、本来金好選の中国、トルコ、インドの減少幅が突出してます。
これは世界的な景気減速の結果と考えます。
給料が上がってもそれ以上に物価が上がっている現在、消費者のフトコロは寂しくなっています。
そんな時にジュエリーには手が出ないですよね。
投資
前年同期の252.6トンから253.9トンと、僅かですが増加しました。
興味深いのは、ゴールドバーは大幅に増加したものの、金貨とETFが減少しています。
金貨はアジアより西側諸国で人気が高く、ETFは欧米のファンドが多く扱います。
つまり、欧米で金を売っている一方、アジア各国では金への投資額が増えているのです。
G7 vs グローバル・サウスという地政学的影響を、如実に現しています。
中央銀行
前年173.6トンから183.4トンへと、増加しています。
今年に入っても、各国中央銀行の購入意欲は衰えません。
購入量トップ3はトルコ、中国、インド。
グローバル・サウスの主要国で、ココにも地政学的変化がみられます。
WGCが別途行ったアンケートでは、中央銀行は今後とも金購入を増やす見込みとか。
中央銀行は滅多なことで金を売らないため、価格の下支え要因となります。
テクノロジー
AIブームの波により、半導体用の需要が増えています。前年同期72.8トンから81.1トンへの変化です。
OTC
前年 214.9トンから329.2トンへと大幅な増加です。
ジュエリーと同程度に増えたことが、今の世界情勢を物語っています。
OTCとはOver The Counterの略。
供給はWGCも把握しやすいのですが、購入は全てを把握するのが困難です。
その結果、供給量>需要量となり、集計の差がOTC(Over The Counter)として表記されます。
OTC=不明な取引。
金は元々匿名性の高い資産であり、様々な憶測を生みます。
OTC増加は、こっそり購入しているクニや超富裕層が増加しているコトが想定されます。
供給
鉱山からの供給は前年899.7トンから929.1トンと過去最大になりました。
リサイクル金も324.0トンから335.4トンへと増加しました。
日本でも、金買い取り業者の広告はあちこちで目にします。
いずれも金価格が高騰している影響と考えます。
日本の現状
円建ての金価格が高騰する中でも、ETF、ゴールドバー、金貨とも買いが増えています。
高齢者の売りを若者の買いが上回っているためで、金に対する世代間の認識差が顕著になっています。
三菱マテリアルによると、現在10gと20gのゴールドバーが品薄です。
13万円~26万円程度と買いやすい金現物であるコトが、原因でしょう。
日本における金の潮目が変わってきました。
●今後の見通し
今後の金価格については、様々な要因を加味する必要があります。
短期と長期に分けて、分析します。
短期的
短期的な視点では、米国の利下げと株価下落がポイントになります。
米国の利下げは金に有利
これは「常に」では無いものの、金利の付かないゴールドは、金利上昇局面で不利になります。
インフレを退治するため、米国の中央銀行(FRB)は金利を上げて来ました。
最近はインフレが落ち着いてきているため、今度は下げる方向で動くと予想されています。
金利低下のフェーズに入ると、短期的に金価格は上昇する可能性が高いと思います。
なお実は、米国金利が上昇している局面でもドル建て金価格は下がっていません。
この現象は後ほど取り上げます。
今後来る株価下落は金に有利
米国では給料増加率よりインフレ率が高く、家計が逼迫してきています。
苦し紛れにクレジットカードで買い物をしますが、結局はリボ払いになり、金利がつきます。
今の高金利では返済額は増加し、払えないヒトが急増しています。
外食産業はもろに打撃を受け、米国マクドナルドは低価格メニューをそろえていましたが、
今後利下げをしても、一度節約が身についた消費者は、モノを買わなくなります。
モノが売れないと、企業利益は減少し、株価も下がります。
株が下がると金を売って現金化する機関投資家が多く、一時的に価格は下がるでしょう。
一旦下がった後、金価格は上昇する可能性高いと考えます。
長期的
ゴールドを輝かせているのは、金利低下や株価下落だけではありません。
視点を長期に移すと、別の景色が広がっています。
鍵になるのはドル。金はドルの反対通貨と言われており、ドルの価値が金価格に大きな影響を与えます。
ドルは第二次世界大戦後に基軸通貨となりました。そこから約80年経って、ドルの価値が大きく変わってきています。
ポイントとしては、ペトロダラー終焉、BRICS新通貨、デジタル通貨、そして米国債務の増大です。
ペトロダラー終焉
日本のメディアでは報じられていませんが「ペトロダラー協定」が終了になりました。
ごく簡単に説明すると、原油は必ずドルで決済する必要がありました。
しかし最近の地政学的影響で、産油国はドル以外の通貨での決済を行うようになっています。
石油が欲しい各国は必ずドルを保有しなければなりませんでしたが、今後は必要量が減ってきます。
ドルのニーズがなくなれば価値は下がり、金の価値は反対に上昇してくるでしょう。
BRICS新通貨
BRICSはお互いの貿易を、ドルではなく新通貨で行うよう動いています。
ドルに代わる基軸通貨は現実的ではなく、一部では金にペッグすると報道されています。
BRICS新通貨はブロックチェーン技術を使うと言われており、ロシアが排除されたSWIFT回線を迂回します。つまりドルの必要量が低下します。
ただ実現には疑問符が付いており、途中で頓挫するかもしれません。
むしろ次に挙げるデジタル通貨の方が、ドルへ与えるダメージが大きいかもしれません。
デジタル通貨
グローバル・サウスとG7は、既にデジタル通貨の開発に取り組んでいます。
デジタル通貨はインターネットを通じて決済されるため、SWIFTを通りません。
SWIFTを通らない決済は、ドル準備の必要量を確実に低下させます。
その結果、ドル価値の低下、金の上昇を引き起こします。
米国債務の増大
米国政府の借金は、コロナ禍を経てGDPの120%を越えました。
日本の250%よりはマシ、と思えますが、金利が違います。
日本は未だに1%、米国は4-5%。利払い額に雲泥の差があります。
2024年度の日本の国債利払い費は約9.6兆円(2024年度)に対して、米国は6,606億ドル(約96.9兆円:2023会計年度)と約10倍です。
日本の利払いは対GDP比 1.6%、米国は2.6%と逆転します。
しかも米国の債務は縮小する見込みはなく、利払いも増加の一途です。
ドルは基軸通貨として大丈夫なのか?多くがギモンに思い始めました。
世界各国は外貨準備としてドルを持っていますが、ドルの下落に備えて積極的にゴールドを買っています。
WGCのレポートの通り、各国中央銀行は以前の2倍量、金購入を増やしています。
中央銀行の金購入が、ドル金利上昇の局面でも金価格が下がらなかった大きな要因です。
ドルの価値は今後、ゆっくりと低下し、金の価値は上昇するとみています。
●まとめ
金は本当に高くなってしまいました。
2009年に初めて買ったときは、1g=2,810円(税込み)でした。ブログを書いている時点では12,907円ですから、実に4.6倍。
コロナ禍で日米欧の中央銀行が通貨を増発し、ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争で地政学的リスクが高まった結果、金は爆上げしています。
「有事の金」が意識される事態となっています。
今後の金価格ですが、日銀の利上げにより円高に振れてきており、円建ての金価格は7/17の13,879円から7/26の12,907円と、急落しています。
さらに米国の株価下落から金の現金化が起こり、これも金下落の要因となります。
しかし、一旦下落した金は、これからの10年を見据えたとき、まだまだ高騰すると思っています。
どこまで上昇するか?
日銀、FRBの通貨増発はリーマンショック前の6~7倍になっています。
通貨発行量に比例して金価格は上昇することが多く、
2008年初頭は1オンス1,000ドル、1g 3,000円程度でしたため、
近い将来に1オンス6,000ドル、1g 20,000円に到達することも、決して非合理ではありません。
現在1オンス2400ドル、1g 1万3千円程度ですので、今から1.5倍~3倍にじわじわ上昇するのでは、と見ています。
「捕らぬ狸の皮算用」というご批判はごもっとも。
ですが金保有者として将来に明るい見通しを持つことは、日々の仕事の疲れを癒してくれます。
さて、来年、どうなっているんでしょうね^^;)。
と、ブログを書いてアップしようとしたら、日銀利上げと米国雇用統計の酷い結果から、株価が急落しました。
いよいよ株価崩壊が始まる予感です。
新しい金投資の教科書。著者は元ワールド・コールド・カウンシルのスタッフです。