- 2025年、円建て金価格は年初から50%以上上昇し、1g=2万円を突破。
- 背景には米国の利下げと財政拡張によるドル価値の低下がある。
- 高市政権の財政拡張で、日本でも円の信認が低下し始めている。
- 金価格の上昇は「通貨の価値が下落している」ことの裏返しである。
- ディベースメント(価値の希薄化)により、実物資産への資金流入が進行中。
- 医師の約70%はすでに投資を行っているが、残る30%は円資産偏重のリスクが大きい。
- 今後の資産防衛には、「円の劣化」を前提とした分散投資が不可欠である。
なぜ2025年に金価格は急上昇したのか?──円建てで50%上昇した背景
2025年の金市場は、まさに異常とも言える高騰相場となりました。
年初に1gあたり14,000~15,000円台で推移していた円建て金価格は、わずか10か月で22,000円を突破。上昇率にして50%以上という勢いでした。
特に9月下旬、国内で「1g=2万円」を超えてから、実物資産としての金を手に入れようとする個人投資家が殺到。
東京・銀座や大阪・心斎橋の金販売店では、平日にもかかわらず長蛇の列ができ、店頭では「在庫切れ」「納期2週間待ち」の札が掲げられるほどでした。
では、なぜここまで急激な上昇が起きたのでしょうか。
ニュースやSNSでは「円安」「地政学リスク」「FRBの利下げ観測」などが挙げられていますが、私自身が最も重要だと考えているのは、構造的な要因です。
米国の金融・財政政策がドルの信認を揺るがす──金高騰の本当の原因
今回の金価格高騰を語るうえで、避けて通れないのが「米国」の存在です。
世界の基軸通貨ドルの信認が揺らぐとき、必ず金市場が動きます。
アメリカでは、景気減速を背景にFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げが始まりました。
同時に、政府は大規模な財政支出プランを打ち出し、公共投資・社会保障費・軍事関連予算を拡大しています。
この結果、米国では実質的なドルの増刷(マネーサプライ拡大)が進行中です。
加えて、米国の政府債務残高は38兆ドルを突破しました。これはGDPの約140%に相当し、第二次世界大戦直後を上回る水準です。
しかも、その債務が縮小する兆しはまったく見えません。むしろ利払い負担の増加により、「借金で借金を返す」悪循環に陥りつつあります。
こうした状況を背景に、世界の投資家の間では「ドルの価値低下」が意識され始めました。
ドルの購買力が下がるということは、ドル建て資産の実質価値が目減りすることを意味します。
そこで、ドルの“反対通貨”とも言えるゴールドへの資金流入が一気に強まりました。
本来であれば、ドル安が進む局面では「円高」が起こるのが歴史的なパターンです。
しかし、今回はそうはなりませんでした。日本には、日本特有の問題があるからです。
高市政権の財政拡張と円の希薄化──日本でも始まったディベースメントの波
国内で円建て金価格が上昇した背景には、日本自身の構造的な事情もあります。
高市政権は発足以来、高い支持率を維持しています。
その要因の一つが、積極的な財政出動による「国民生活の底上げ」を掲げる政策姿勢です。
インフラ投資、子育て支援、防衛強化──どれも政治的には支持を得やすいテーマですが、同時に財政拡張路線=国債発行増加=円の増刷を意味します。
つまり、米国のドル増刷と同様に、日本でも「円の価値が薄まる方向」へ動き出しているのです。
もちろん日本銀行は“量的緩和の出口”を模索しているように見えますが、実際には景気腰折れを恐れ、金利を十分に上げられない状況が続いています。
財政も金融も、依然として緩和方向。これは、通貨価値の下落リスクを内包します。
興味深いのは、こうした中でもドル円レートが極端に円高にも円安にも振れないことです。
一見「安定」しているように見えますが、実態は違います。
ドルも円も同時に希薄化しているため、表面的な為替レートには大きな変化が出ない──いわば“相対的な通貨安”の世界に入っているのです。
その結果、投資家や個人が注目するのは、「通貨に依存しない価値保存手段」、すなわち金(ゴールド)でした。
ドルの価値低下と同時に、円の信認も低下しつつある。そうした中で、円建て金価格の上昇は必然だったといえるでしょう。
実は“金価格が上がった”のではない──法定通貨の価値が下がっている現実
多くの人がニュースやSNSで「金が上がった!」と話題にしています。
しかし、本質を見誤ってはいけません。今回起きているのは「金価格の上昇」ではなく、「法定通貨の価値下落」なのです。
金の価格とは、本来「通貨の価値の裏返し」でもあります。
つまり、金が高くなったように見えるとき、実際には円やドルの購買力が落ちているということです。
この構造的な現象を、近年では「ディベースメント取引(De-basement Trade)」と呼ぶようになりました。
「ディベースメント(debasement)」とは、文字通り「価値を薄めること」。
歴史的には、銀貨や金貨に他の金属を混ぜて“薄める”ことで、名目上の貨幣供給量を増やす行為を指しました。
現代ではそれが、中央銀行による過剰な通貨供給や財政赤字の拡大という形で現れています。
いま世界中の投資家がやっているのは、「金が欲しい」というより、「通貨から逃げたい」「価値を保存したい」という動きです。
ドルも円も、政治・財政・金利のいずれの面から見ても希薄化が進み、結果として、金・銀・原油・不動産・株式など実物や有限資産へのシフトが起こっているのです。
特に日本は、慢性的な財政赤字、少子高齢化、そして構造的な低金利によって、今後も円の価値下落が止まる兆しは見えません。
一見、景気が安定しているように見えても、実際には通貨の購買力が年々薄まっていく──これが「ディベースメント経済」の本質です。
まとめ:円の購買力低下時代に医師が考えるべき資産防衛──投資の有無が分かれ道
2025年の金価格急騰を目の当たりにして、私が感じたのは「金が高くなった」という驚きではなく、
むしろ「円資産を持っていると購買力が急速に低下する」という恐怖でした。
しかし、この「円の価値低下」という現象は、日常の中ではなかなか実感しにくいものです。
なぜなら、円という数字そのものは変わらないからです。
けれども、スーパーでの食料品、外食、電気代、医療機器、そして教育費など──
同じ金額で買える量や質が年々下がっていく。
それこそが、円の価値が目減りしているという現実、すなわち「インフレ=購買力低下」です。
医師という職業は依然として高所得層に属しますが、実際には給与が頭打ちになっているケースも多く、銀行預金だけで資産を守ることは、もはや困難な時代に入りました。
物価が上がり続ける一方で、預金金利は微々たるモノ。
この環境では、預金額が増えても実質的な購買力は下がっていくのです。
一方、医師の間でも投資行動には変化が見られます。
医療系専門サイト「CareNet」の調査によれば、約70%の医師が何らかの投資を行っているとのことです。
投資先としては株式や投資信託が中心ですが、これらの医師たちは意識していなくとも、すでに「通貨価値の下落」に対する防衛行動をとっているといえます。
問題は、残りの30%の“投資をしていない医師世帯”です。
「投資をしていない」ということは、言い換えれば「円資産に全振りしている」ということ。
つまり、円の価値が下がれば、資産全体の購買力が下がるというリスクをそのまま抱えているのです。
これからの時代、資産防衛の第一歩は「何に投資するか」以前に、「円という通貨そのものが劣化している」という現実を自覚すること。
その理解があって初めて、ディベースメント時代を生き抜くための戦略が立てられるのだと思います。



