臨床

循環器専門医が考える降圧薬の使い分け

循環器専門医が考える降圧薬の選び方
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こんにちは。山のクマです。

普段から降圧薬を処方していますが、あらためて見て見るとものすごい数が存在します。

それぞれの特徴や使い方はガイドラインにも書いてあるのですが、必ずしも臨床現場とは一致しない部分があります。

そこで今回は、循環器専門医として、外来でどのように降圧薬を使い分けているか、まとめてみました。ガイドラインからは外れる部分もありますので、そこはご留意ください

なお、わかりやすい本はこちらです。

よくある副作用症例に学ぶ 降圧薬の使い方→Amazon.co.jp

降圧効果がしっかりしていて、副作用の少ない降圧剤が一番良い薬です。

それは、Ca拮抗薬とARB(アンギオテンシン受容体拮抗薬)です。

Ca拮抗薬

最も使いやすい降圧薬です。副作用も非常に少なく、禁忌もほとんどなく、効果も確実です。

外来ではアムロジピンとニフェジピンCRを最も使います。中等度の高血圧にはアムロジピンを、すぐに血圧を下げたいときにはニフェジピンCRです。

アムロジピンの特徴は、なんと言っても降圧効果が安定していること。半減期36時間は伊達ではありません。

患者さんがクスリを飲み忘れる事は、日常茶飯事です。アムロジピンは1日程度飲み忘れても血圧が急上昇しないため、安心していられます

ニフェジピンはアムロジピンより降圧効果がしっかりしており、CR錠では1日最大80mg使えるのがメリットです。

血清クレアチニンが上昇した慢性腎臓病のヒトにはARBやMRAが使いにくいので、コメントをつけた上でアムロジピンとニフェジピンを併用しています。

副作用

Ca拮抗薬の副作用としては、むくみ、頭痛、歯肉肥厚があります。特に歯肉肥厚は患者さんのQOLを著しく損なうため、頭の痛い問題です

歯肉肥厚が出た時は、基本的にCa拮抗薬は中止しています。しかし、他の薬では血圧が下がらないときがあるんですよね。

そのようなときは、こわごわ他の銘柄を使います。例えばアムロジピンで歯肉肥厚が起きたときにはアゼルニジピンを使うとか。

ここら辺は患者さんと話し合いながら、決めています。

ARB

こちらも副作用が少なく、使いやすいクスリです。

現在ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、イルベサルタン、アジルサルタンの7種類が上市されています。

アジルサルタンはまだジェネリックがないため、ほとんど使っていません。

使った感覚では、イルベサルタン、テルミサルタンが血圧安定しやすい。またこの2つは、Ca拮抗薬・利尿剤との合剤も豊富なため、クスリが増えることを嫌う患者さんにも勧めやすいモノです。

循環器疾患との絡みでは、

・心肥大を伴う高血圧では肥大退縮が期待できる
・心不全に対する良い効果が期待できる

という点で、心肥大があったり心機能が少し落ちているヒトには積極的に導入しています。

また腎保護効果が期待できるため、Crが少し高いヒト、尿蛋白が多い人、糖尿病の方にも良く用います。

副作用

要注意なのは腎機能悪化と血清カリウムの上昇です。腎臓病のヒトにARBを投与すると若干血清クレアチニンは上昇するのですが、右肩上がりに上昇する場合もあるため、定期的な採血が必須です。

また妊婦には禁忌です。胎児の発育を阻害したり羊水過小などのリスクが報告されています。そのため、妊娠可能年齢の女性には使いにくい。

副作用ではないのですが、脱水では過降圧となるリスクがあります。そのため汗をかく夏場、胃腸炎の時には中止も考えます。

ACE阻害薬

一般的な降圧薬ですが、塩分摂取量の多い地域では役不足です。十分な降圧効果を出そうとすると量が増え、咳嗽に悩まされます。

ただ心不全に対する効果は抜群のため、血圧の低い慢性心不全患者に投与しています。

ARBと同様、腎機能と血清カリウムの観察が必要です。また妊婦には禁忌です

MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)

Ca拮抗薬、ARBを使っても下がらないヒトのサードチョイスとしています。

エプレレノンは多めに使わないと下がらないのと、中等度以上の腎機能低下および尿蛋白陽性者では禁忌となっていて、使いにくい印象です。

一方エサキセレノンは血圧が下がりやすく、中程度の腎機能低下でも禁忌ではないため、こちらの方が使いやすい。

昔からあるスピロノラクトンは降圧効果よりも心保護作用を期待して、使います。ただ、女性化乳房に注意です。

副作用

こちらも腎機能低下、高カリウム血症に注意する必要があります。特にARBと併用するときには、定期的な採血が必要です。

利尿薬

古い降圧薬ですが、塩分摂取量の多い患者さんでは出番があります

「利尿薬」と書かれていますが、降圧薬として使うのは基本サイアザイドなので、患者さんには「塩分をおしっこに出すクスリ」と説明しています。

降圧薬として利尿剤を使う場合、少量投与がポイントです。トリクロルメチアジドなら0.5mg~1mg程度。

なお、サイアザイド類似薬としてインダパミドがありますが、これも塩分摂取が多い人には効果抜群です。

副作用

血清クレアチニン上昇、K低下、尿酸値上昇に要注意です。高齢者に使うときには特にこまめにチェックする必要があります。

夏は汗をかくため、利尿剤内服しているヒトは過降圧の危険があります。そのため暖かくなって血圧が下がってきたら、中止も考えます。

β-blocker

こちらも古い降圧薬ですが、頻脈傾向、心不全合併、片頭痛合併の時には優先して使います

β-blockerは片頭痛の予防薬としても有効です。片頭痛は若い女性に多いんですよね。

また妊婦さんにも長く使われ、胎児への影響も少ないことがわかっているため、妊娠可能年齢な女性には、好んで使っています。

裏技として、発表会などで人前に出てドキドキするヒトに、プロプラノロール(10)を半錠、本番前に飲んでもらう事があります。病名は当然「発作性頻拍の予防」です。血圧もほとんど下がらず、動悸もせず、大変喜ばれます。

古いクスリゆえ、小児の高血圧にも長く使われています。

最近ではβ-blockerは、心不全の薬として認識されています。これを書くと長くなるので割愛しますが、使うときには少量からです。

副作用

気管支喘息に注意です。気管支喘息がある人にβ-blockerを使いたいときには、ビソプロロールなどの選択的β1-blockerを用います。

α-blocker

古い降圧薬ですが、前立腺肥大傾向のある人に使うと、効果的です。

また就寝前に内服すると早朝高血圧に対応できると言われていますが、あまり効果を実感できません。

それよりはアムロジピンを用いたり、コメントをつけてニフェジピンCRを朝晩に分けて飲んでもらう方が、良いと感じています。

副作用

特に高齢者で、起立性低血圧に注意です。

中枢性交感神経抑制薬

ほとんど出番はありませんが、高血圧合併妊娠の時に活躍します。高血圧専門医と連携し、メチルドパを処方して無事出産にこぎ着けたこともあります。

レニン阻害薬

一時期待されましたが、ACE・ARBとの併用禁忌となり、出番はほとんどなくなってしまいました。

まとめ

あらためて考えてみると、本当にいろいろな降圧薬があります。

ただ、降圧効果が確かで、副作用が少なく、医者が使いやすい降圧薬は、やはりCa拮抗薬とARBです。

腎機能と電解質に注意してこの2つを使って行けば、多くの高血圧患者さんに対応できると思います。

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