こんにちは、山のクマです。
最近心不全の新しい薬が次々と上市されています。
サクビトリルバルサルタン(エンレスト)もその一つです。
今年の秋、さらに作用機序の異なる薬が出ました。
ベルイシグアド(ベリキューボ)です。
今回はこちらの薬について解説します。
効果
まずはHFrEFに対する大規模試験のデータを提示します。
既に心不全の標準的治療を行っているNYHA II~IV度の比較的重症な心不全患者さんに対し、ベルイシグアドを上乗せしてます。
VICTORIA試験(Armstrong PW, et al. N Engl J Med. 2020; 382: 1883-1893)
その結果、心血管死又は心不全による初回入院の複合エンドポイントを10%有意に減少させました(p=0.019)。
既にβ遮断薬、ACE阻害薬/ARB/ARNI、MRAが入っている上での結果なので、とてもインパクトがあります。
また日本人を含むアジア人は2割ほど入っているため、今後大いに期待されます。
さらに特筆すべきはNNT24という値で、かなり良いデータです。
エンドポイントを細かく見ていくと、実は有意差が出ているのは入院回避です。
心血管死亡、全死亡は有意差がついていません(心血管死は24ヵ月以降で有意差がつき始めているようですが・・・)。
なお、75歳以上、HFpEF、eGFR<=30、NT-proBNP>5,314(重度心不全)では有効性に乏しいようです。
NT-proBNPを細かく見てゆくと、4,000未満では効果が高く、8,000以上では効果が低いというデータです。
以上からベルイシグアドは、
標準治療を行っている、比較的重症なHFrEF患者に上乗せすることで、
入院回数減少効果が期待できる薬剤と言えます。
作用機序は?
心臓・血管に重要な働きをする、一酸化窒素(NO)経路に作用します。
1)NO受容体である可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を直接刺激する
2)内因性NOに対するsGCの感受性を高める
という2つの作用機序により、環状グアノシン一リン酸(cGMP)の産生を増加させます。
cGMPの増加により、
2)心筋拡張障害の改善
3)心肥大抑制
等の効果が期待できます。
このデータを見て、心不全でNO抵抗性が起こっているということに驚きました。
2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の考え方が、心不全にも使えるんですね。
副作用・排泄
副作用は、プラセボと比べて突出したものはありません。
排泄は腎臓・肝臓がだいたい半々です。
慢性心不全の人って腎機能が低下していることが多く、使いやすい薬のようです。
臨床的意義
NNTが二けたというのはとても良いです。
24人に投与して1人の心不全入院を抑制できると言うことですから、
効率が良いです。
なおHFrEF患者の全死亡リスク低下におけるNNTは次の通りです。
ACE阻害薬/ARB 22(42ヵ月)
ARNI 36(27ヵ月)
β遮断薬 34(12ヵ月)
SGLT2阻害薬 43(18ヵ月)
ちなみにこの4剤は、Fantastic 4と呼ばれています。
ベルイシグアドには、今のところ全死亡リスク低下効果は確認されていないため、
上記の標準的心不全治療に上乗せすることが大切です。
まとめ
以上ベルイシグアドについて見てきました。
基幹病院で働いていたときには、
心不全を繰り返す患者が多くて困っていました。
「せっかく良くなって帰ったのにな・・・」と嘆くこともしばしば。
もちろん患者さんにとっても、堪ったもんじゃありません。
このように再入院を防げる薬が上市されたことは、
循環器専門医として、とてもうれしいことです。
今後いろいろ使われて臨床データもそろってくるでしょうから、
期待して待っています。