「金ジュエリー、高く買い取ります」
ここ数年、リサイクルショップの看板でよく見かける。
高齢者が持ち込み「高く買ってもらった」と喜んで帰って行く。らしい。
金価格高騰が市民生活に影響している。
以前から金投資は医者にお勧めと紹介してきた。
医者は忙しい。煩わしい投資は避けたいところ。
金は買った後、保管するだけで手間いらず、ラクだ。
しかも世界各国で取引されており、いつでも売買できる。
が、その詳細を知る機会は、ほとんどない。
今回はデータを元に、魅惑の金取引を案内する。
2023年上半期、意外だったのは、価格高騰の中でも日本人が買っている姿だ。
あくまで医師投資家の私見ですので、詳細は専門のサイトをご覧ください。
金取引のデータ
集計しているのはWorld Gold Council。最近日本語のページも出来た。
金売買は大きく分けて、ジュエリー目的、投資目的(延べ棒、コイン、ETF)、工業目的、中央銀行の外貨準備の4つに分けられる。
レポートはかなり固い内容だが、気になるところをゆる~く書いてみる。
データなど詳細は原著を参考にして欲しい。
日本人が金を買っている
円建て金価格の上昇にもかかわらず、ジュエリー用、投資用とも増えている。
これは久しぶりのことだ。
バブル期はイケイケで、金ブームが起きた。
給料は右肩上がり、円高で金1g 1,200円~1,500円。そりゃ、買うよね。
豊田商事事件やバブル崩壊の影響で、その後低迷。
GDP世界第三位の国とは思えないほど、金を買わなくなった。
平泉の中尊寺や京都の金閣寺に代表されるように、日本人は金を好むと思っていたが、
あのギラギラした感じを身につけるのは、合わないのかも。
ところが円安を背景とした金価格の高騰で、タンスに眠っていたジュエリーがリサイクルマーケットに出てきている。
「これであこがれの旅行に行ける!」
目を輝かせている高齢者の顔が目に浮かぶ。
その一方、円安・インフレに不安を覚えた若者が金を買い始めた。
ジュエリーでは「喜平」と呼ばれるチェーンが人気とか。
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今の若者は、現金以外の金融資産・現物資産に目を向け始めている。
おじさんとしては、喜ばしい限り。
中国は減少
もともと金を好むお国柄だが、今年はあまり買っていない。
景気減速が最大の要因。
ジュエリーは過去10年の平均に戻っていない。
一方投資用は横ばい。
金価格の上昇で注目は集めているモノの、まだ様子見をしている。
ただし、後で述べるが中国人民銀行(中国の中央銀行)は、金購入を増やしている。
インドも減少
こちらも金を好むエリアだが、購入量は減っている。
原因は、なんといっても価格上昇。
ゴールドは娘の嫁入り支度金なのに、父ちゃんツライわな・・・。
ジュエリーは減少、投資用は横ばいとなっている。
トルコは増加
現地通貨は以前から不安定なため、庶民は資産保全のためゴールドを保有したり、贈り物にするとか。
現在トルコは強烈なインフレに見舞われており、国民は金買いを進めている。
ジュエリーでは14Kに比べて22Kが多く買われており(24Kが純金)、やはり投資動機が背景にある。
一方投資用も、富裕層を中心に購入が増えている。
まさにゴールドラッシュの様相。
米国はまちまち
政府の給付金が減少したことで、ジュエリー買いは減っている。
一方投資用は、銀行破綻を契機とした金融不安もあり、増えている。
なお、米国は1933年~1974年に市民の金保有が禁止されていたせいか、
資産としてゴールドを持つ習慣は、あまりない。
ウォーレン・バフェットも、金投資を嫌っている。
ドルは基軸通貨だし、米国株は右肩上がりだし、金を買う動機は希薄だろう。
ただ、年金基金やファンドなどによる金ETF取引は活発だ。
欧州は減少
ヨーロッパは金購入が減った。
ジュエリー用は英国の生活苦が足を引っ張っている。
投資用は特にドイツで減少。
もともとドイツは金を好むが、金利上昇により銀行預金に流れている。
なおヨーロッパは全体的に金を好む。
特にスイスは、娘が産まれると誕生日ごとに、金貨を積み立てる。
コインは写真と供にアルバムに貼り、嫁入り道具として持たせるのだ。
中東・ASEANはまちまち
ASEANは金価格高騰や景気低迷のため、横ばいからやや減少。
中東はエジプトとイランを中心に、買いが増えている
なお中東は、かなり金が好きな地域。ドバイにはゴールドスークという宝飾店通りもある。
イスラムは金利を禁じているため、金利の付かないゴールドは重宝されるとか。
中央銀行も増やしている
中国、シンガポール、インドなどが金購入を増やしている。
なお、中央銀行は金購入をIMFに報告しているが、
ここら辺は様々な政治的思惑がありそうだ。
ETFは減少
中央銀行の利上げに伴い、金利を生まないゴールドは敬遠されている。
それでも地域差があり、欧米は大きく減少する一方、金利の低い日本・中国は増えている。
分厚い資金を運用する機関投資家の売り買いは、短期的な金価格を左右する。
金ETFが減少すれば金価格は下がり、金ETFが増えれば上昇する。
金ETFは株と同じように扱えるため、欧米の銀行・ファンド・年金基金が多く扱っているのだ。
今後利下げに転じれば、ドルベースの金価格は上昇するだろう。
注目すべきOTC~秘匿な世界へようこそ~
今回のレポートで特筆すべきなのが、OTCの増加。
OTCとはOver The Counterの略で、マーケットを通さずに直接売買する方式のこと。
相対(あいたい)取引とも言う。
OTCは、業者が在庫を購入するときに使う事が多い。
金はマーケットで大量に買うと、一気に価格が上昇してしまう。
そのため表に出にくいOTC取引で、価格への影響を少なくするのだ。
また、取引の匿名性が保たれることも、特徴だ。
誰が誰に売っているのか、分からない。
一部では金購入を知られたくない某国が、代理人を使ってOTC取引をしているという噂も・・・。
ゴルゴ13を思わせる、ちょっと妖しい雰囲気のセクターだ。
なお、昭和天皇の御在位60年記念金貨を発行したとき、日本は大量の金が必要となった。
注目を浴びないよう、価格上昇を抑え、予算内に納めるため、
こっそり、密かに買い集めたと言われている。
金の持つ繊細で雅なオーラも、魅力の一つだ。
供給は増加
金産出に目を向けてみると、僅かだが増えている。
鉱山の生産量は増加した。
リサイクルによる金供給は各国様々だが、中国とインドは伸びた。
中国はジュエリーが売れず、卸売り在庫処分がリサイクルに回った。
インドは庶民の生活苦と金高騰のため、売却が増えた。
まとめ
ゴールドの需要と供給には、その時の世界情勢が大いに反映される。
金投資はG7だけでなく、グローバルサウスの動向も見ながら進める必要がある。
さらに、表に出てこない売買に思索を巡らすコトも欠かせない。
広い視野が求められる。医者の得意分野だ。
金を知ることは、世界を知ること。