臨床

循環器専門医が考える抗凝固薬(DOAC)の使い分け:心房細動の脳梗塞予防

循環器専門医が考えるDOACの使い分け
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こんにちは。山のクマです。

心房細動治療(薬物)ガイドラインによると、心房細動の有病率は、80歳以上で

男性 4.43%
女性 2.19%

と言われています。

そのため、一般診療所でも、心房細動の人を診る機会は多いと思います。

心房細動が脳梗塞を引き起こすことは、よく知られています。専門的には心原性脳塞栓症と言いますが、予防には抗凝固薬の投与が重要です。

以前はワルファリンが唯一の薬でしたが、最近は直接経口抗凝固薬(Direct Oral AntiCoagulants:DOAC)が中心的となっています。

ワルファリンと異なり採血は不要で投与しやすいのですが、日本で上市されている4種類の薬をどのように使い分けてゆけば良いか、疑問に思う先生もいるでしょう。

今回の記事では循環器開業医の視点から、DOACの特徴、投与時の注意点、抜歯などではどうするか、について書きたいと思います。

DOACの処方を受けている人は、飲んでいるクスリを自己判断でやめたり、量を変えたりしないでください。

薬について気になることがありましたら、必ず主治医と相談してください。

なおこちらの本が、さらに知識を増やすときに参考になります。

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DOACを処方する前に

DOAC処方時に必要なのは、患者さんへの説明と腎機能測定です。

特に高齢者は、思った以上に腎機能が悪化している時があるため、最初に血清クレアチニンを測定することが、とても重要です。

患者さんへの説明

患者さんには、心房細動によって脳梗塞になる可能性を、時間をかけて説明します。

具体的には

1点の人は年間2%
2点の人は年間4%
3点の人は年間6%
4点の人は年間8%
5点の人は年間10%
6点の人は年間12%

と、CHADS2スコア×2%と暗算しています。

実際のデータはこちらですが、おおよそ合います。
CHADS2

Validation of Clinical Classification Schemes for Predicting Stroke: Results From the National Registry of Atrial Fibrillation : JAMA 2001

原著は欧米人が対象ですが、日本人ではCHADS2スコア0~1点の脳梗塞発症率は極めて低く、年間1%未満です。そのことも診察の時には説明します。

DOACを使うことで、脳梗塞の可能性を約7割下げることが出来ると説明します。
たとえば「CHADS2 2点の人は、年間4%→1.2%に減ります」等のように話します。

Risk factors for stroke and efficacy of antithrombotic therapy in atrial fibrillation. Analysis of pooled data from five randomized controlled trials: Arch Intern Med. 1994 Jul 11;154(13):1449-57

なお、CHA2DS2-VAScスコアは覚えにくく、使っていません。

その後、出血しやすい状態でないか、血圧が高くないか(脳出血の危険)、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の既往がないか、などに注意して診察してゆきます。

もしヘリコバクター・ピロリ菌がいるなら、上部内視鏡検査をやった上で除菌を考えた方が良いですね。

ピロリ菌一次除菌の時にはクラリスロマイシン(CAM)を使いますが、全てのDOACはCAMと相互作用を持っています。

CAM投与時の内服量が指定されているエドキサバンを選ぶと、良いでしょう。

腎機能を確認する

腎機能は大切です。血清クレアチニン、体重を必ず測定し、簡易クレアチニンクリアランス(CCr:mL/min)を求めます。CCrの値で、使えるDOACが変わってくることもあります。

なお、標準化eGFR(mL/min/1.73m2)は体重を考慮しない値なので、DOAC選択の指標としては使えません

DOACの特徴と選び方

日本で使えるDOACは4種類です。心原性脳塞栓症の予防効果、出血リスクはほぼ同じですが、それぞれ特徴があります。

特に高齢者に投与するときには、「飲み忘れを少なく出来るか」「飲みにくくはないか」「副作用が出やすくないか」という視点を持って選びます。

具体的な投与量は、患者さんの年齢・腎機能・併用薬などにより決まってくるため、添付文書で確認してください。

ダビガトラン(商品名:プラザキサ)

最初に上市されたDOACです。内服は1日2回。医者の判断で投与量を選べるメリットがあります。

欠点は、カプセル製剤である事。当院でも経験あるのですが、カプセルが食道に引っかかって、潰瘍を作ることがあります。原因は内服時の飲水量が少ないことです。

そのため、十分な水で内服するよう、指導する必要があります。

高齢者はカプセル製剤を上手に飲めないことが多く、個人的にダビガトランを積極的に使うケースは、ほとんどありません。

ただ、ダビガトランにはイダルシズマブ(商品名:プリズバインド)という拮抗薬があるため、万が一出血しても、対応可能です。

そのため、医学的な処置を行う前に、他のDOACから切り替える事はあるようです。

リバロキサバン(商品名:イグザレルト)

2番目に上市されたDOACです。1日1回内服で、非常に多くのデータを持っているのが強みです。

ただ、自分の経験では出血しやすい人が多く、最近は処方していません。大規模試験では他のDOACと比べても、副作用の点で多くはないため、個人的な経験なのかもしれませんね。

アピキサバン(商品名:エリキュース)

3番目に上市されたDOACです。1日2回の内服です。

最大の強みは、CCr 15mL/minまで投与できること。高齢者はCCrが低くなってきますが、脱水が加わったり小柄な女性となると、CCr 20mL/min台にまで下がることは、良く経験されます。

CCr 20mL/min台では、使える薬はアピキサバンだけです。

1日2回内服が必要な点は、短所にも長所にもなります。

短所としては、高齢者などで夕方に飲み忘れが発生しやすいこと。その分、脳梗塞になる可能性が高くなります。

長所としては、午前中の医学的処置でDOACを止めた場合、処置後夕方からアピキサバンを再開でき、内服スケジュールが狂いにくい点です。

なお、アピキサバンでの出血の合併症は経験していません。

エドキサバン(商品名:リクシアナ)

4番目に上梓されたDOACです。今のところ、当院で一番使っています。

最大のメリットは1日1回内服で、飲み忘れが少ないこと。口腔内崩壊錠があり、高齢者でも内服しやすい点も良いですね。

個人的な印象ですが、同じ1日1回のリバロキサバンよりも出血しにくいと思います。

またCAMなどP蛋白阻害作用を有する薬剤と併用するときの容量が、添付文書にきちんと書かれています。

「なんとなく減量した」ではなく、「根拠をもって減量した」と言えることは、大きな利点です。

最大の欠点は、最大投与量と中間投与量の薬価がほぼ同じ点です。これにはいろいろ理由があるようですが、患者さんに投与するときには、意識してしまいますね。

なお、お勧めしませんが、薬価を考慮して、最大量の剤形を半分に割って処方する先生もいるそうです。

おまけ:ワルファリン(商品名:ワーファリン)

昔からある抗凝固薬で、効果も副作用もよく知られており、良い薬です。

欠点は毎回PT-INRを測定する必要があること、食品との相互作用が多いこと、今となっては出血のリスクがDOACより高いこと、です。当院でも、ワルファリンを投与する患者さんは減っています。

しかしワルファリンには、他のDOACにはないメリットがあります。

機械式人工弁を入れた人はDOACが使えず、ワルファリンを投与する必要がある

なんと言っても薬価が安い

仕事を辞めるまでDOACを使っていた人が、
「仕事やめて年金生活になるので、安いワーファリンにしてくれ」
と言ってきたため、ワルファリンに戻したこともあります。

なおワルファリンについては、こちらの本がよくまとまっています。

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外科的な処置の時にはDOACをどうするか?

悩ましいところです。
こちらのガイドライン41ページに載っていますが、結構煩雑です。

2020 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版:冠動脈疾患患者における抗血栓療法

一般的にDOACを中止する期間は、ワルファリンより短い。当院でも手術を控えた患者さんの場合、ワルファリンからDOACへ変更します。

医学的処置に関して、一番問い合わせの多いのは抜歯です。基本的には、内服したまま抜歯してもらい、圧迫止血を長く行ってもらいます。

ただ、出血量が多くなりそうな場合は当日朝の分を止めるなど、ケースバイケースで判断する必要があるでしょう。

まとめ

以上、DOACの特徴・使い分けを、自分の経験を元に書いてきました。

心房細動で起こる脳梗塞は、他の脳梗塞に比べて重症化しやすい。DOACでその可能性は減らすことが出来るため、なるべく処方が必要と、常々考えています。

今回の記事が参考になれば、幸いです。

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