こんにちは、山のクマです。
今までの記事で集患・増刊対策を書いてきましたが、いずれもランチェスター戦略に従った戦術です。
ランチェスター戦略とは何か?なじみのない方もいると思います。
これ、診療所経営には、最適の戦略の一つです。
今回の記事では、
・ランチェスター戦略について
・ランチェスター戦略に沿った集患・増患対策
・集患・増患対策の効果について
を書いていきます。
ランチェスター戦略とは
2つの世界大戦の際、自軍の戦闘力を「武器の性能」と「兵力の和」から計算する公式が導かれました。提唱者の名前をとって「ランチェスター法則」と呼ばれています。
簡単に述べると、勝ち負けは両軍の「武器の性能」と「兵力の和」に依存し、
刀や短銃などを用いる古典的な接近戦
戦闘力=武器性能×兵力数(第一法則)
マシンガンなど近代兵器を用いる遠隔戦
戦闘力=武器性能×兵力数の2乗(第二法則)
として導き出されます。これらは実際の戦闘で、かなり精度が高いことが確認されています。
つまり、兵力数の少ない弱者が強者と対する時は、接近戦の方が、相手に多くのダメージを与えることが出来ます。
第二次世界大戦後、日本人の田岡伸夫さんがランチェスター法則を経営戦略に応用し、ランチェスター戦略を確立します。1972年「ランチェスター販売戦略」を出版し、中小企業の経営戦略として広がっていきました。
ランチェスター戦略を一言で表すなら、「小さな会社は接近戦を仕掛けろ!」となります。まさに診療所経営にぴったりです。
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ランチェスター戦略の診療所経営への応用
ランチェスター戦略では市場占有率が重要で、シェア1位を目指します。
大きな企業は資金力があるため、広範囲に営業をかけてシェアを取ることが出来ます。しかし中小企業には。その力がありません。
そのため、小さな市場、ニッチな市場に的を絞って営業を行うことが重要です。つまり、「広域戦」ではなく「局地戦」に持ち込ます。
診療所経営に応用すると、広い診療圏ではなく、自院近辺の小さな診療圏を想定し、高い患者獲得率を目指して集患・増患対策を行う、となります。
いかに費用をかけないようにするか。これがポイントです。
診療圏市場調査
まずは自院のシェアを確認するため、診療圏における疾患別推定患者数を把握することが大切です。
経営コンサルタントに依頼しても良いのですが、費用がかかってしまいます。自分で出来る市場調査のやり方を、紹介します。
国勢調査から診療圏の年齢性別人口を求める
5年に1回、全国国勢調査が行われます。そのデータはネットからダウンロードして利用できます。
まずは自院近辺の小さな診療圏内の男女年齢別人口を求めます。データはエクセルで処理すると便利ですね。
検診の有病率から、疾患別有病者数を求める
引き続き、検診データから年齢性別ごとの有病率を調べます。そのデータを国勢調査から得られた人口分布にかけ、推定患者数を計算します。
自院近辺の良い検診データがなかったため、東京都のデータを使いました。
自院の患者数を求めてシェアを計算する
電子カルテより自院診療圏内の疾患別患者数を求め、推定患者数を分母としたシェアを計算します。
その際、「受診率」を考慮する必要があります。推定患者数が1,000人いても、受診率が60%なら分母は600人になります。
生活習慣病の受診率は、高くとも50%~60%と言われているため、この点は重要です。
シンボル目標値は74%、42%、26%
シェア1位となるには、どの程度の患者占有率を達成すると良いでしょう?
ランチェスター戦略では、3つの数字を挙げています。
・74%:上限目標値
・42%:安定目標値
・26%:下限目標値
従って、まずは26%、出来れば42%以上を目指します。
ただ、シェアは取れば取るだけ良い、というわけではありません。
他に競合する診療所がないと、高度に専門知識を必要とする患者も診なければならないなど、大変な面も出てきます。
自分は弱者と考える
診療所は「弱者」、基幹病院は「強者」として考えます。まあ、小さな村に1件だけの診療所なら「強者」ですが・・・。
局所戦を仕掛ける
弱者の戦略は、局所戦です。じかに顔をあわせ、自院を知ってもらう事が大切です。
そのツール(戦術)として、患者さん向け勉強会を行いました。
また、「患者さんが患者さんを連れてくる」ことを期待して、病気のパンフレットを作成し、来院した人に持って行ってもらいました。
当院初診の受診動機は以下の通りです。
・近所だから :30%
・家族が通院中:22%
勉強会とパンフレットという2つの戦術で、この層に集中してアプローチしました。
マスメディアは使わない
マスメディアへの広告は広域戦です。これが有効なのは、強者である基幹病院や自費診療の美容整形などでしょう。
広告費はかなり高く、弱者である診療所が用いてもコストパフォーマンスが悪すぎます。
実際当院では、とある理由で新聞広告を年間15回ほど出していますが、これで来院する人は年間1人です。1回の広告料は1万円~3万円なので、年間費用は30万円程度もかかってしまいます。
マスメディアではありませんが、街道沿いの看板も、集患・増患対策としては期待できません。年間費用30~40万円ですが、看板を見て来院した人は、年間1人未満です。現在は撤去しています。
ホームページはゲリラ戦
一方、費用がほとんどかからないホームページは、弱者の戦術としてうってつけで、ゲリラ戦に分類されると思います。
ホームページを見に来る人は、
・近くの診療所を探している
・自分の症状について専門医を探している
などの目的を持っているため、効率よく自院をアピールできます。
最低でも自院の名前、住所、電話番号、専門分野などの基本情報はホームページに載せるべきです。患者さんはスマホやカーナビを使って、やってきます。
さらに集患・増患を目指すなら、専門分野のコンテンツを充実させ、SEO(Search Engine Optimization, 検索エンジン最適化)対策を行う必要があります。
SEO対策には、こちらの本がお勧めです。
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コンテンツは業者委託も出来ますが、なにぶん費用がかかります。自分でガンバって作った方が、更新する上でも便利です。
当院でかけている費用は、ホームページ作成ソフト約2万円、レンタルサーバ代年間7千円前後、ドメイン使用料年間7千円前後です。
作成ソフトは一度だけの出費ですので、年間費用1万5千円程度。ホームページ経由で来院する人は年間60~90人なので、十分ペイできます。
ランチェスター戦略を取り入れた結果
局地戦、ゲリラ戦を意識して集患・増患対策を行った結果を示します。
患者占有率
自院診療圏内の疾患別患者占有率は、以下のようになっています。
・高血圧症:61%
・高脂血症:55%
・糖尿病 :59%
安定目標値を超えました。
思わぬルートで患者さんが増えた
シェアを上げていった結果、基幹病院だけでなく、閉院する診療所からも紹介患者をいただくことが多くなりました。
当初は想定していなかったので、うれしい誤算です。その結果、ますます患者占有率が上昇しています。
まとめ
診療所集患・増患の対策として、ランチェスター戦略と、それにまつわる戦術を紹介しました。
当院は地方都市の住宅街にあるため、この戦略がとても有効でした。診療所の立地条件によっては、異なる戦略が必要になるでしょう。
「戦略は見えざるもの、戦術は見えるもの」
これは、帝国海軍の連合艦隊指令官長官、山本五十六が残した言葉であると言われています。
大局的にどのように集患・増患を図るか(戦略)をまず考え、その後現場に落とし込む(戦術)と、方向性が定まり、無駄がなくなります。
借金を返済するには節約だけでなく、患者さんを増やして収入増を図る必要があります。
診療所経営では大きな固定費(地代、人件費、返済、リース料など)がかかりますが、そこを超えることで、初めてお金が貯まってきます。
いったん収入が固定費を上回ってくると、加速度的に経営が楽になってきます。
以上を参考にして、自院なりの戦略・戦術を考えていただければ、幸いです。